1649年10月07日〜10月13日

ラ・ロシュフーコー公爵(当時はまだマルシャック公子)の場合

ノーデ:ロングヴィル公爵はフロンド派にもかかわらず、まんまとポン=ド=ラルシュを手に入れて、ほくほく。

本の行商人ジャック:ノルマンディー総督としては、交通と軍事の要衝を支配できるのですから大満足ですよね。あとで問題にならなきゃいいけど…

ノーデ:欲しいものといえば、ラ・ロシュフーコーさんがずーっと欲しがっていたアレはどうなったかな?

ジャック:あーっと、えーっと…王様の前でも妻が腰をかけていいという特権ですか?

ノーデ:それそれ。

ジャック:王妃様は与えてもよいと考えておられるようですが…

ノーデ:ロングヴィル夫人のために、義侠心からフロンド派の先頭に立ったとはいえ、王妃アンヌ様とラ・ロシュフーコーさんは、王妃様がリシュリュー枢機卿にいじめられていた時代から、じつは仲がよかったのだ。

ジャック:そこにも騎士道精神の発露が見られますね。王妃様をお守りする公爵の図。

ノーデ:じっさい、この度のパリ包囲戦で、パリへの食料移送中に、国王軍の銃弾によって瀕死の重傷を負わされたのだが、王妃様は、その敵方であるはずのラ・ロシュフーコーさんの元に、わざわざ使者を送って安否を確かめておられるのだよ。

ジャック:こんな状況でなかったら、王妃様の頼もしい味方になっていただけた方ですよね。

ノーデ:今はまだ父のラ・ロシュフーコー公爵が健在だが、水晶玉によると来年の2月あたりに代替わりになる。

ジャック:その場合、どうなるんですか? 

ノーデ:正統な後継者として認められ、公爵位を継ぐには、国王の承認が必要だ。

ジャック:そこ、王様の専売特許ですよね!

ノーデ:まるで家元制度みたいだが、それを認めるのが王の権威なのだよ。

ジャック:いや〜、しかし、この状況で、ラ・ロシュフーコー家の御大がご逝去なさると、その承認がスムーズにいくのでしょうかね?

ノーデ:かなりむずかしいな…

身分は特権によって差異化される

ジャック:それにしても、なんですね、ラ・ロシュフーコーさんの渇望する、妻が王様の前で腰掛ける許可とか、他にも聞くところでは、ルーヴル宮に馬車で乗りつけられる特権とか、貴族の皆さんはそんなものを得るのに必死なのですね。

ノーデ:そりゃそうだよ!身分社会というのは序列。それが目に見える形にするのがどんな特権をもっているかなのだから。

ジャック:庶民にはわかりませんね。王様が頂点で、そっから肩書きで下へさがっていくだけじゃないんですか?

ノーデ:いろんな特権でマウントしあうのが序列社会なのだ。

ジャック:それを与えられるのが王様だけ?

ノーデ:そこが自由な資本主義社会とはちがうところです。資本主義社会では、それはお金が与えてくれます。いわゆるステータスシンボルはお金で買えるものが多い。全部が全部ではないにしてもね。

ジャック:、お金があれば人と差をつけられるのが現代、ですね、ノーデ先生!

François de La Rochefoucauld (1836) Versailles