レフェランス

参考文献

こちらの参考文献は、書籍「フロンドの乱とマザリナード/La Fronde et les Mazarinades : présentation de l’exposition au Musée Komaba.」に関連して、もう少し発展的に自分の読書を展開したい方のために、つぎに読むといいと思われる本を中心にピックアップしました。5つの章にリンクした形でご紹介しています。

マザリナード研究の専門知識にアクセスする場合には、フランス語が読めることが必須になります。この本をきっかけに、より専門的な情報を得たい場合には、欠かすことのできないフランス語文献をいくつかあげておきます。フランス語を読むことができる研究者の方にはマザリナード研究の基礎文献になります。

第1章「フロンドの乱とマザリナード文書」

フランス史について書かれた書物はたくさんありますので、ここでは取りあげません。
新書で手軽に読めるものとして一冊だけご紹介しておきます。
・柴田三千雄『フランス史10講義』(岩波新書、2006年)

フロンドの乱について
・千葉治男『ルイ14世 フランス絶対王政の虚実』(清水書院、2018年)
(最初に出版されたのは1989年ですが、古びることなくフロンドの乱のエッセンスが凝縮されています。巻末のルイ14世年表は「王政・戦争の年譜」、「フランスの社会・経済・文化」「ヨーロッパ」の3項目からなり、概要をつかむのに適しています。)

ブルボン王朝について
・長谷川輝夫『聖なる王権ブルボン家』(講談社選書メチエ234、2002年)
(歴代の王様に焦点をあてて、ルイ14世とフロンドの乱にも触れられています。)

絶対王政について(これは少し難しい参考文献かもしれませんが、あげておきます)
・ファニー・ゴザンデ、ロベール・デシモン『フランス絶対主義―歴史と史学史』(岩波書店、2021年)
(ロベール・デシモンはクリスチャン・ジュオーとの共著もあり、フロンドの乱の研究に欠かせない著書をいくつも書いています。この本では巻末の訳者解題が重要で、絶対主義の研究史を概観できます。また、索引が充実しており、人名、現代の研究者名、事項の3つのカテゴリーに分けられています。このような著作を日本語で読めることはたいへん貴重で、翻訳なさったフランス絶対主義研究会のお仕事には敬服いたします。翻訳はその分野の学術用語を規定する重要な役割も担います。17世紀を専門にしようとする人には必携の文献です。)

フィクションについて
つぎにフロンドの乱が登場するフィクションをあげておきます。
歴史的出来事を物語にすることには賛否両論あり、とりわけ大学の歴史研究者においては歴史物語を否定する傾向にあります。

しかしながら、フランスのアカデミー会員で、17世紀の専門家として多くの著作があるイヴ=マリ・ベルセ氏はつぎのようにいっています。

「ミシュレとデュマとでは、フロンドの乱に関して最も誠実だったのはどちらだろうか?」

これは2013年3月にカーン大学が主催した小さなシンポジウムでご一緒した折りにベルセ氏がおっしゃった言葉です。ミシュレは大著『フランス史』を書いた19世紀の有名な歴史学者のジュール・ミシュレで、デュマは『三銃士』を書いた著名な作家です。ベルセ氏の言葉は、どちらが真実を伝えているかともいいかえられます。

私たちはここでデュマを読むことを提案したいと思います。なぜかというと、この本を読んだ皆さんは、史実としてのフロンドの乱について学術的には正確な知識をもっています。そこでフィクションを読みながら、考えてほしいのです。果たしてデュマは真実を伝えているのだろうか? そもそも真実とはなんだろうか?

アレクサンドル・デュマ『ダルタニャン物語』(復刊ドットコム、2001年)
(鈴木力衛訳で復刻された『ダルタニャン物語』第3巻「我は王軍、友は叛軍」が原著では『三銃士』につづく『二十年後』で、まさにフロンドの乱を背景にした冒険物語です。)

もう一点はフロンドの乱の主要人物のひとり、ラ・ロシュフーコー公爵の生涯を評伝小説として描いたものです。
・堀田善衞『ラ・ロシュフーコー公爵傳説』(集英社文庫、2005年)

第2章「詩神の降臨」

ここで取りあげている有名な作家に関しては、文庫、単行本、全集などがたくさん出ており、図書館へ行けば、何かしらの作品を日本語で読むことができます。

同時代の文学場について
より専門的に17世紀前半の文芸場における作家の状況を知るにはつぎの著作が適切な知識を与えてくれるでしょう。
・アラン・ヴィアラ『作家の誕生』(藤原書店、2005年)
(この著作の原題には「古典主義時代の文学の社会学」という副題がついているのですが、日本語のタイトルでは省略されているのが、残念です。この副題では売れにくいと考えられたのでしょうか。国家博士論文が元になっているだけに、網羅的で細密な調査からなり、文字どおり圧巻です。この著作を読めば、教科書的に刷り込まれてきた古典主義時代のイメージが刷新されるにちがいありません。)

ガブリエル・ノーデについて
ガブリエル・ノーデについては本文でも触れているように、近代図書館学の祖という面と、リベルタンとしての面があります。
・伊藤敬『図書館創設のための提言』(日仏図書館情報学会創立50周年記念出版、日仏図書館情報学会、2022年)
(待望の新訳です。知ってはいるけれど、じっさいに読んでいる人は少ない本の典型とされてきましたが、もうそんな言い訳は通用しなくなりました。とりわけ巻末の解説は図書館学の祖としてのノーデにとどまらず、短い評伝になっていますので、今後、ノーデに言及するときには必読になります。)

・赤木昭三『フランス近代の反宗教思想』(岩波書店、1993年)
(自由思想の持ち主としてのノーデと、その背景にあるフランス社会、当時の知識人の活動がよくわかります。文芸の場と重なりつつも、17世紀の知的活動には、また異なる空間があることがわかります)

第3章「17世紀の出版業者とマザリナード文書」

印刷術や書籍出版業についても、ひじょうに多くの著作が書かれ、翻訳されています。どれかひとつを選ぶということなら、やはりこの一冊でしょう。

印刷術と書籍販売の歴史について
・リュシアン・フェーブル、アンリ=ジャン・マルタン『書物の出現』(筑摩書房、1985年)
(単行本はもう手に入らないかもしれませんが、幸い文庫化されています。印刷術と書物の世界に入るなら、まずこの一冊を読みましょう。もちろん、批判される点もありますが、まず読んでから、さらに知識を蓄えて、どんなところが批判されるべきなのかを考えるのもいいでしょう。)

・ロジェ・シャルティエ『読書と読者 アンシャン・レジーム期における』(みすず書房、1994年)
(シャルティエは言わずと知れた読書の歴史の専門家です。日本では翻訳者に恵まれて、読書に関するシャルティエの本がたくさん訳されています。どれから読み始めてもいいでしょう。あまり日常では対象化されることのない「読書という行為」に向けられる視線に新鮮な驚きを覚えるかもしれません。ロジェ・シャルティエ編『書物から読書へ』は論文集で、巻末に社会学者のピエール・ブルデューとの対談が掲載されています。読書の歴史社会学入門としては、こちらの方が読みやすいかもしれません。)

第4章「コレクター」

ここでは参考文献ではなく、東京大学所蔵コレクション『マザリナード集成』に関してまとめ、じっさいにマザリナード文書を読むにはどうすればいいかを説明します。

東京大学総合図書館のマザリナード文書
『マザリナード集成』は東京大学総合図書館に所蔵され、貴重書(請求番号A100-1652)として保管されています。(閲覧の条件は総合図書館にお問い合わせください)

やはり400年近くたった印刷物ですので、劣化は避けられません。まだ閲覧禁止にはなっていませんが、先日見ましたところ、A_1_1すなわちコレクションの最初の巻の劣化が激しくなっていました。おそらく興味をもたれた方が、とりあえずこの巻を請求してみようと考えるからだと推察します。そこで、物理的な装丁や紙の状態を観察するなどの目的がないかぎり、テクストだけを参照する用向きの方はデジタル化されたmazarinades.orgのコーパスをお使いください。パネルにある文書はすべてこちらから閲覧可能です。

本文注にあるアルファベットA~Eまでと数字(最初が下位コレクションの巻の番号、つぎがその巻の何番目の文書にあたるかを表しています)を組み合わせた分類番号を入力すると、お目当ての文書が表示されます。(例:B_3_46は下位コレクションBの3巻目のなかの46番目の文書です)

マザリナード選集
それ以外の方法では印刷された選集が二種類あります。
・Célestin Moreau, Choix de Mazarinades, New York : Johnson reprint, 1965.
(モローによる選集で95点のマザリナード文書を収録しています。フランス国立図書館電子図書館Gallicaで読むことができます。)

・Hubert Carrier, La Fronde, contestation démocratique et misère paysanne. 52 Mazarinades / Reproduction photographique des éditions originales, introduction, chronologie de la Fronde, notes et index, Paris : Edhis, 1982.
(キャリエによる選集で特に内乱にまきこまれる民衆の苦難を社会問題化する52点が選ばれています。)

その他、インターネットでタイトルを検索するとGoogle Booksがデジタル化している場合があります。たとえば、ガブリエル・ノーデの『マスキュラ』(Ivgement de tovt ce qvi a esté imprimé contre le Cardinal Mazarin …)はつぎのURLでも読むことができます。
https://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=osu.32435017815523&view=1up&seq=138

『マザリナード集成』の由来に関しては以下の論文をご参照ください。
・一丸禎子「マザリナード文書の公開に先立って : その特性と東京大学コレクションの紹介」(学習院大学紀要『人文』9号、2011年)

第5章 カタログ(研究史)

19世紀に『マザリナード書誌』を作成したセレスタン・モローについては残念ながら、マザラン図書館のページをのぞいてあまり資料がありません。

モローの生きたジャーナリズムの世界を描き出したフィクションとしては、19世紀の小説家バルザックの作品を読んでみるといいかもしれません。自身も新聞小説の書き手として、まさにその世界を生きたバルザックは、『幻滅−メディア戦記』(『人間喜劇』のなかの一編)において、詩人として成功することを夢見ながら、田舎からパリに出て来た青年リュシアン・ド・リュバンプレが社交界と出版・新聞界で翻弄される姿を描いています。この小説を映画化した『幻滅』はフランスで高く評価され、セザール賞を7つも受賞しました。2023年春に日本でも公開されます。

アルマン・ダルトワに関しては近年、クリストフ・ベレ氏の論文に詳しいのですが、フランス語なので、ノーデに関するファビエンヌ・ケルー氏の基礎的な論文といっしょに、この参考文献の最後に紹介します。

学術基板情報としてのマザリナード文書の目録化に関しては、以下の著作にまとめています。
・一丸禎子「Web時代のマザリナード・プロジェクト−日仏共同研究プロジェクトの展望」(『書物史研究の日仏交流』日仏図書館情報学会創立50周年記念出版、樹村房、2021年)
(枚数制限を設けず自由に書いてよろしいとのことでしたので、40ページにわたり、研究史と研究動向、今後の課題を網羅的に展開しています。マザリナード文書研究の基盤情報の扱いに関して過去、現在、未来が凝集されております。)

フランス語の参考文献

ここからはマザリナード研究をのぞいてみたいという方に必要最小限の基礎的な参考文献をあげておきます。残念ながら、卒論の準備にはこれらの文献が必要です。この分野の専門書はすべてフランス語です。

フランス語必読文献>

・Hubert Carrier, La Presse de la Fronde (1648-1653) : Les Mazarinades. La Conquête de l’opinion, Genève : Librairie Droz, 1989.

・Hubert Carrier, La Presse de la Fronde (1648-1653) : Les Mazarinades. Les Hommes du livre, Genève : Librairie Droz, 1991.
(上記の2冊はマザリナード文書という集合を網羅的に記述したものです。いいかえるなら、マザリナードに関する百科事典です。私たちの本の記述も基本的にはこのキャリエの著作を参照しています。索引があるので、調べたい人名や事項を探し出すことができます。)

研究するために最初に揃えたおいた方がいいもの

・Célestin Moreau, Bibliographie des Mazarinades, New York : Johnson reprint, 1965
(フランス国立図書館電子図書館Gallicaで閲覧可能です。)

・François Bluche, Dictionnaire du Grand Siècle 1589-1715, Paris : fayard, 2005.
(フランス17世紀「偉大なる世紀」の事典。それぞれの項目を専門家が記述しています。「マザリナード」の項はもちろんキャリエの執筆によるので、基本的なことを抑えるのに便利です。インターネット上でも調べはつきますが、かならずこうした専門知識にもとづく学術情報を確認する必要があることを覚えておきましょう。)

マザリナード研究に関するもの

・Christian Jouhaud, Mazarinades, la Fronde des mots, Paris : Aubier, 1985.
(新版が出ています。この著作には邦訳がありますが、訳語の選択に独自の解釈があるようです。たとえば、écritureが「文章」に、scansion de l’action が「行為の断綴性発音(音節が不必要に強調される発音障害)」に、あるいは歴史上の人物を表す意味でよく使われるacteur / actriceが「行為−作用子」になるなど。引用する場合は、かならず原著で確認した方がよいでしょう。また、ジュオーの著作は自身がいうように、マザリナード文書全体を記述したものでなく事例研究です。その手際は方法論としてひじょうによいお手本になります。記述方法では1980代に流行した述語を使っていることも特徴的です。文学系の研究者には見慣れたécritureという単語も当時の問題系を知らないと正確には理解できませんので注意が必要です。ジュオーの仕事は研究史に大きなインパクトを与えたので、フランスでも最近までこれらの点を指摘するのはややタブーでした。)

つぎにもっとも新しい知見として、2015年にパリで開かれた国際学会の論文集をあげておきます。
・Histoire et civilization du livre—XII, Genève : Droz, 2016.
(この論文集にはたくさんの新しい知見や研究のアイデアがつまっています。研究動向を知るうえでひじょうに参考になります。また、私たちの本文のなかでノーデとダルトワに関する記述は、ノーデの伝記的事実をFabienne Queyroux氏の « Plumes bien taillées » contre « livres très pernicieux à l’État » : Gabriel Naudé et les mazarinades.に、マザラン図書館司書アルマン・ダルトワに関してはChristophe Vellet氏の Les mazarinades à l’affiche ? Armand d’Artois et la collection de la Bibliothèque Mazarine.に依拠しています。)

まだ出版されていないのですが、2022年にルーアン大学で開催された国際学会の論文集『マザリナードと領域Mazarinades et Territoires』も今、準備中です。そちらが最新の研究動向になります。

その他の参考文献

最後にフロンドの乱、マザラン、回想録に関する著作をあげておきます。

・Jean-Marie Constant, C’était la Fronde, Paris : Flammarion, 2016.

(ラ・ロシュフーコー、コンデ親王、その姉のロングヴィル公爵夫人と、フロンドの乱の主要人物ごとに特徴をとらえています。本文に註がなく、最後に解説と参考文献がまとめられています。読書の楽しみを感じさせる著作で、私たちもジャン=マリー=コンスタン氏による最新流行のそのスタイルをまねてみました。すでに専門的研究をしている人には物足りないかもしれませんが、フランス語で最初に読むフロンドの乱には適しています。フィクションの『三銃士』『二十年後』とあわせて読むとおもしろいかもしれません。)

・Olivier Poncet, Mazarin l’Italien, Paris : Taillandier / Rome : École française de Rome / Madrid : Casa de Velázquez, coll. « Lectures méditerranéennes », 2018.

(オリヴィエ・ポンセ氏のマザランに関する最新の著作のうちのひとつです。積極的に一時資料を解読し、新たな知見に基づく新しいマザラン像を描きだします。この著作も最近の流行のスタイルで註がほとんどありません。)

・Olivier Poncet, Mazarin : l’art de gouverner, Paris : Perrin / Bibliothèque nationale de France, coll. « Bibliothèque des illustres », 2021.

(上記の著作同様にもっとも新しいマザラン像を描きだしますが、こちらは年代記風になっています。絵画やマザラン自筆の手紙、遺言書など、画像がふんだんに使われており、そのキャプションを追っていくだけでも楽しめます。やはりこの本にも註はありません。)

La Fronde des Mémoires (1648-1653), sous la direction de Marc Hersant et Éric Tourette, Paris : Classiques Garnier, 2019.

(17世紀は回想録の時代でもありました。レ枢機卿をはじめ、多くの同時代人がそのなかでフロンドの乱に言及しています。それらの記述に考察する論文集です。)

おわりに

以上が入門用の参考文献です。新しく用意している日本語のサイトでは、参考文献に批評をつけて紹介していく予定ですので、ものたりない方はそちらをご参照ください。

フランス語を読める人はフランス語のサイトmazarinades.orgにすでに参考文献があり、こちらはテクストが読めるようにリンクが貼られています(たとえば、モローの選集やギィ・パタンの書簡などは、リンクで参照することができます)。より専門的な本の選択になっていますが、ポータル的に便利にお使いください。