1649年11月10日〜11月16日

王妃様vs貴族会議

本の行商人ジャック:それで、この騒動に王妃様はどんなご様子でいらっしゃるのでしょうか?

ノーデ:貴族たちの主張にも耳を傾けておられる。

ジャック:先日、側近の方からうかがったところでは、数年前に一代限りの公爵の勅許状を出したときも、おなじように反対されたとおっしゃっていたそうです。そのときみたいに、いずれ鎮まるというお考えでしょうかね?

ノーデ:だとしたら、少々お考えが甘いな。

ジャック:貴族たちは公平に扱うのが建前ですが、実際には気に入ったひとに手厚くなるのは避けられない、それが現実…

ノーデ:とはいえ、人の妬みほど恐ろしいものはないぞ、ジャックよ。

ジャック:直談判におよんだ貴族たちは宮廷でも地位の高い人たちだったようですね。

ノーデ:直接王家にお仕えする貴族たちも加わっている。

ジャック:その意味では王妃様にとって身近な人たち。

ノーデ:押しかけた貴族たちは、コンデ親王の同意がなくても王妃様のご決断によって、今回の特権授与が無効にされると信じているようだった。

ジャック:そのニュースは即座に市中にも広まり、ロングヴィル夫人は誹謗中傷を的になっていますよ。ド・ポンス夫人の支持者であるラ・リヴィエール師など、生まれがあまり良くないせいもあって、まるで奸臣のように悪様に言われています。

コンデ親王からはガツンと怒られる貴族会議

ノーデ:代表団が王妃様に謁見した翌日、さっそくまた貴族の皆さんは集会を開いた。コンデ親王など、王族の気分を害するのはよくないと、慎重に善後策を考えたのだろう。

ジャック:そこで、ムッシュー、つまりルイ14世のおじさんであるオルレアン公の元に、まず釈明のための代表が送られました。まあ、ムッシューの性格から、ことさら波風を立てるようなことはおっしゃらなかったでしょう。

ノーデ:しかし、コンデ親王相手にはそうはいかない。どうやら超絶塩対応だったらしい。

ジャック:ご不快をあらわにされたのか!

ノーデ:コンデ親王のお言葉を簡単にまとめると、この件に関しては王妃様もムッシューも気持ちよく決定したことであるがゆえに、自分もそれに賛成したのだ。それをこんなに大騒ぎにして。これまで友人と思っていたのに、諸君らは貴族会議など開いて自分を糾弾してするとは、何事か。諸君らが友人でなければ、この屈辱にも耐えよう。だが、友のこのような振る舞いは絶対に許さない、とおっしゃられたようだ。

ジャック:そ、それは恐ろしい…

ノーデ:淡々とこんなふうに詰められて、釈明する隙もなく、震えあがるしかなかった、というひともいる。怒らせると怖いということを、みんな知っておるからなぁ、あの人…

ボーフォール公の助っ人をお断りする懸命な貴族会議

ジャック:その一方で、この事態を心底面白がっている人がいます。ボーフォール公…

ノーデ:何によらず、宮廷内に波風が立てば、それだけで欣喜雀躍するお方だからな。

ジャック:さっそく、貴族会議に助っ人を申し出たようです。もちろん、王族として、武力行使も含めて。

ノーデ:貴族会議の方では、それだけはご遠慮願いたいところだろう。

ジャック:丁重にお断りしたとのことですよ。

ノーデ:「市場の王」などと呼ばれて民衆に人気があり、フロンド派で暴れているボーフォール公など引き入れようものなら、王妃様に何と誤解されるかわからない。

ジャック:お断りしたのは懸命な判断でしたね。

ノーデ:まぁ、騒ぎにはなんにでも首を突っ込みたがるボーフォール公だから、このあとのフロンドの乱の後半でも活躍する場はありますよ。

ジャック:貴族会議はこのあとどうするのでしょう?

ノーデ:それは来週のお楽しみ!

Anne d’Autriche, par Rubens en 1625, musée du Louvre.