1649年11月3日〜11月9日

特権も枢機卿の帽子も、欲しければ宮廷におけるロビー活動は必須

本の行商人ジャック:ところで、ロングヴィル公爵夫人が必死に応援する弟君、コンデ親王ですが、今のところマザラン枢機卿とは和平を結ばれてようですね。

ノーデ:静かなのは貴族のための論功行賞で手いっぱいだからではないか?

ジャック:たしかに、政治むきのことはマザラン枢機卿に丸投げしちゃったみたいです。

ノーデ:フロンド派には名門貴族もいて、国王軍を率いたコンデ親王としては、彼らと仲直りしておきたいところ。

ジャック:それだと論功行賞っていうより、むしろ手打ちですよね? ならば、この際だから気前良く特権をばら撒いてあげれば?

ノーデ:それができるのは身分制度の頂点にある国王だけなのだよ。特権は制度的に王様からの恩恵ということになっているのだからね。

ジャック:ということはルイ14世? でも、王様はまだ子供だから、摂政である王母アンヌ様が代行ということになりますか。

ノーデ:そもそも貴族たちは、この特権を得るために、日頃から王様や力のある人たちの覚えがめでたくなるようにアピールしているのだ。未来社会でいうところの、ロビー活動だな。ジャック:しかし、どれほど熱心にがんばっても、かならずしもほしいものが手に入るとはかぎらないのだ。

ノーデ:それは枢機卿の帽子獲得キャンペーンでも似たところがある。

ジャック:そういえば、ポール・ド・ゴンディ協働司教vsラ・リヴィエールさんの枢機卿の帽子をめぐる争い。

ノーデ: それぞれのバックには支持者や応援団がついていて…

ジャック:つまり、宮廷で皆さんロビー活動を熱心に展開し、特権を得ようと切磋琢磨しているときに、ポンと例のお腰掛け特権がラ・ロシュフーコーさんの奥方とド・ポンス未亡人に与えられた。ラ・ロシュフーコーさんのお喜びはいかばかりか!

ノーデ:ご当人たちはさぞ嬉しかろう。が、問題は他の貴族たちはどう思うかだ。

たかが腰掛けじゃない。ふさわしいか、ふさわしくないか、それが問題だ…

ジャック:だいたい、大袈裟なのですよ、貴族の皆さんは…たかが腰掛けじゃないですか。

ノーデ:ジャックは庶民だからな…。わからないかもしれないが、これが貴族集団にとっては看過できない一大事となるのだよ。序列にかかわるのだからな。

ジャック:まあ、たしかに、座っているか、立っているかで、序列が可視化されるっていうことはあるでしょう。でも、繰り返しますが、たかが腰掛けじゃないですか?

ノーデ:それが、ちがうのだ。この奥方のお腰掛け特権によって家の格付けが変わる。あらたに腰掛けの特権を与えられた彼らは、中世以来の大貴族、ロアン家、フォワ家、リュクサンブール家などと並ぶことになるのだよ。

ジャック:目に見えるだけ…じゃないんだ。

ノーデ:そこで一部の貴族たちが主張し、団結して王妃様に直談判しようということにまでなった。

ジャック:ひぃ! お貴族様たちの団体交渉ですか?

ノーデ:この特権の授与はけしからんと、王妃様にご忠告申しあげるとのことのだ。ダルブレ家の面々が、名前にダルブレが入っているというだけで、先祖に国王がいるなどと吹聴するのはいかがなものか。他の名門貴族にも影響をおよぼしかねないと。

ジャック:でも、ラ・ロシュフーコーさんは由緒正しき公爵家の御曹司ですよ!

ノーデ:いや、まだ当主ではない、息子にすぎないのだよ。爵位を継承してもいない子の分際でこのような特権が許されるなど、前例がないというのだ。

まことに御し難きもの、それは貴族…

ジャック:それでは、どうしろと? これらの特権を与えるのをやめれば納得する?

ノーデ:いいや、ところが、そうではないのだ。公爵たちとフランスの元帥閣下らは、今回の授与については、反対はしない。

ジャック:反対ではない!?

ノーデ:ただ、自分達を公平に扱ってほしいというのだ。

ジャック:というと?

ノーデ:自分らの子供たちも、同等に扱っていただきたい。つまり、爵位を継ぐ前の子であっても、今回のマルシャック公子と同等の格付けを与えてほしい…ということだよ。

ジャック:あぁぁぁ、もう、徹頭徹尾、序列にこだわるんだ!

ノーデ:まぁ、こうした経験から、後にルイ14世がヴェルサイユ宮殿に貴族たちを集めて骨抜きにしようとしたのも理解できるわな。

ジャック:やっかいですよねぇ、とりわけ中世以来の、いわゆる剣の貴族様たちは…

ノーデ:来年はこの人たちが大活躍するフロンドの乱後半がいよいよ始まります。

ジャック:その前にこのお腰掛け騒動をもう少し詳しく

ノーデ:字数が来ましたので、また来週!


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