1649年12月8日〜12月14日

ギュイエンヌ州総督エペルノン公爵は嫌われ者

本の行商人ジャック:そういえば、パリ高等法院はこのところボルドーのことで忙しそうにしていますけれど、宮廷内の対立には無関心なのでしょうかね。

ノーデ:そうはいかない。やはり、宮廷の問題は影響しているよ。だが、ボルドーは深刻な状況だ。ギュイエンヌ州総督エペルノン公爵が横暴で、暴力的すぎる。だから別の人を送ってほしいと願いでているのだ。そしてボルドー高等法院はエペルノン公爵と真っ向から対立している。

ジャック:ボルドーはフロンドの乱で最後まで抵抗しますよね。もともと暴動や反乱の絶えない土地柄ではありますが…

ノーデ:16世紀には国王総代行官が暴徒に石を投げられて殺されるという事件もあったくらいだ。

ジャック:ああ、その事件なら、モンテーニュさんの『エッセー』にも出てきますね。

ノーデ:どうやら、防衛の要であるトロンペット城がボルドー市民の手に落ち、破壊されたたらしい。

ジャック:なんですと!

ノーデ:市民はこれで誰の支配もおよばない、と鼻息あらいそうだ。

ジャック:それじゃ、腰掛け椅子取りゲームどころじゃないではありませんか。

ノーデ:まさにそうだな。だから王妃様も、適当に切り上げる必要があった。だが、切迫しているのは、ボルドーの状況だけではない。

国庫は空っぽ、さあ、どうする?

ジャック:あれですか?

ノーデ:うん、そう、あれ…国家財政の危機。

ジャック:米櫃が空になった状態⁉︎

ノーデ:ジャックよ、フランスに米櫃はないのだよ。

ジャック:王族の皆さんは、ほんとにもう、せっせと使うことにだけは熱心なのですが…

ノーデ:しかし、パリ高等法院は増税にはがんとして譲らない。

ジャック:マザラン枢機卿にはなにか打開策があるのでしょうか?

ノーデ:じつは、パルティセリ=デムリを呼び戻そうとお考えなのだ。

ジャック:ええええ!!!!! そ、それは無理でしょう。だって、あのタリフ(パリ市を囲む城壁外の違法建築にかかる罰金)を発案し反発をまねき、消費税を上げるわ、市内に入ってくる輸入品へ課税強化するわ、次から次に増税策を考え出して、みんなから蛇蝎のごとく嫌われている人ですよ?

ノーデ:いかにも。そのせいで、昨年の夏は財務監査官長の職を解かれ、石もて追われることになった人物。

ジャック:なんでまたそんな人を連れて来ようなどとするのでしょう、枢機卿は?

ノーデ:人々から憎まれるほどに、財源を見つける天才だったからだよ。

ジャック:財源って、それ、臣民から搾りとるってことじゃないですか?

ノーデ:後任のド・ラ・メイユレさんではだめなのだ。現状をみればわかるだろう?

ジャック:ほかにも優秀な役人はいると思うのですが…

ノーデ:平時ならともかく、あっちでもこっちでも反乱が起きている時に力を発揮できるひとは、そうはいない。何をしようと、民衆を満足させることなんてできない。それを経験的に知っているのが彼の強み。

ジャック:いやいやいや…あれだけ嫌われてしまったら、もう無理ですよ。

ノーデ:それを実現してしまうのが、われらが枢機卿なのだよ、ジャック。

ジャック:無理無理無理無理無理…

Duc d’Épernon, gouverneur de Guyenne

Particelli d’Émery


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