死刑を逃れようと必死の申し開き:印刷業者コティネの場合
逃亡中も無実を訴える印刷業者コティネ
本の行商人ジャック:先日の一斉取り締まりでは一時的に身を隠して難をのがれた印刷業者もおりましたが、そのなかでコティネさんはあいかわらず逃亡中ですね。
ノーデ:だが、パリ高等法院に無実を訴える書きつけをよこしたそうだ。
ジャック:なんだと言っているんです?
ノーデ:なんでも重要な点がふたつ。ひとつには、たしかに家族を養うため、やむをえず諷刺的な文書を印刷したことはあった。
ジャック:家族を養うため…
ノーデ:問題はふたつ目だ。『イタリア人の和平に対するフランス人のため息』が自分の家にあったのには事情があると。
ジャック:前半は情状酌量をもとめるものですが、あの文書が家にあったのですから、そこは申し開きができないのではないでしょうか…
本当に再版を頼まれただけなのか…
ノーデ:コティネが言うには、あの文書は道端で出会った行商人たちがもっていたものだと。
ジャック:ほう、行商人が…
ノーデ:コティネは彼らに再版を頼まれただけだというのだ。
ジャック:それで引き受けた?
ノーデ:いや、完全にそうとも言えない。家に持ち帰って活字を組み始めたのだが、出版許可が出るまでは組版を完成させることも、ましてや印刷させることもしてはならないと思ったのだそうだ。
ジャック:ずいぶん殊勝ではありませんか。
ノーデ:そこで、組版を地下に持っていき、職人たちには自分の許可なく印刷してはならないと言った。そうこうするうちに、民事代官が警官を連れてやってきてしまったと。
ジャック:そんな言い訳が通るんでしょうかね?
ノーデ:コティネはそれで、自宅の地下にあったのは、出版許可を待っている文書だったと主張し、パリ高等法院に自分への訴追を取り下げてくれるように願い出ている。
ジャック:果たしてこの請願が受け入れられるのでしょうか…