1649年6月17日〜6月23日

誰もが宮廷でよりよいポジションを狙っている

ノーデ:ともかくだ、マザラン枢機卿の姪とメルクール公爵の縁談については、王家に関わる縁組を勝手に決めるなどけしからんと、コンデ親王はカンカンになっているわけです。

本の行商人ジャック:とはいえ、メルクール公爵のお父さん、セザール・ド・ブルボン=ヴァンドームの御大はこの縁談にかなり乗り気のようですよ。アンリ4世の庶子とはいえ、あのひとも王族ですよね?

ノーデ:庶子とはいえ、というか、庶子だからこそというか…

ジャック:ヴァンドーム家の方からマザラン枢機卿に話を持ちかけたそうじゃないですか。下心見え見えですよ。

ノーデ:将を射んと欲すれば、まず馬を射よということだな。

ジャック:そうでしょう? 王妃様の覚えをめでたくするには、まずマザラン枢機卿と仲良くしないと…

コンデ親王を牽制する意味でも、役に立つ縁談

ノーデ:しかし、マザラン枢機卿にとっても、この縁談は悪くない話なのだよ。王族とのつながりをもつという意味で。

ジャック:たしかに。宮廷には先王の弟ガストン・ドルレアン、筆頭親王家のコンデ親王がいて、発言力をもっているわけですからね。

ノーデ:彼らに対抗できるような地位を縁組によって固めることになる。

ジャック:ヴァンドーム家はこれで王様に近づくことができる。Win-winというわけですね!

コンデ親王とマザラン枢機卿の溝は深まることを喜ぶ人たち

ジャック:じつはロングヴィル公爵夫人が…

ノーデ:またぞろ動き出しておるのかな?

ジャック:この一件を利用して、弟のコンデ親王のマザラン枢機卿に対する悪感情を煽っているらしい…との噂で。

ノーデ:ロングヴィル公爵夫人は最初からマザラン枢機卿が大嫌い。

ジャック:末の弟のコンティ公や夫のロングヴィル公爵を焚き付けて味方にし、フロンド派に引き入れたくらいですから。

ノーデ:市庁舎立てこもりの間に出産までしているし。

ジャック:この1月、宮廷がサン=ジェルマン=アン=レーに出発した時に、出産間近ということで同行せず、そのままパリに籠城してしまいましたからね。

ロングヴィル公爵夫人の耳打ち

ノーデ:姉としては、コンデ親王をなんとしても自分の味方に引き入れたい。

ジャック:コンデ親王はこれまで、王族として、つねに宮廷と共にあらねばならぬという信念で動いてきましたが、マザラン枢機卿への悪感情が高まれば、離反もありうるかもしれませんね。

ノーデ:王妃様に近い人のお話では、ロングヴィル公爵夫人の耳打ちでコンデ親王はかなり自尊心を傷つけられているようだ。

ジャック:マザラン枢機卿はそのお気持ちをなんとかなだめようとしていますよ。

ノーデ:コンデ親王と正面切って対立するのは、得策ではないからのお。

ジャック:しかし、まったく効果がないそうです。

ノーデ:コンデ親王がいろいろ理由をつけて宮廷と距離をおき、6月にはしばらくブルゴーニュに引くつもりだと言い出しているのも、そのあたりに原因があるのだろう。

ジャック:げに恐ろしきは耳打ちですね…