マザリネット その4 「あなたは皇帝、支配者 そしてあなたは泣く! 」
あなたは皇帝、支配者 そしてあなたは泣く!
本の行商人ジャック:ラシーヌによる悲劇『ベレニス』の有名なせりふ、「Vous êtes empereur, seigneur, et vous pleurez! あなたは皇帝、支配者 そしてあなたは泣く! 」は、初恋を諦めなければならなかったルイ14世とマリ・マンシーニの心情を描いているといわれますね。
ノーデ:『ベレニス』は、ローマ皇帝ティテュスとパレスチナ女王ベレニスの悲恋なのだ。
本の行商人ジャック:国家理性と愛に引き裂かれるのですね。
悲恋のふたり、その後
ノーデ:コロンナ家に嫁いだマリの人生は、その後、幸せとは程遠かったようだ。
ジャック:コロンナ家の若様はちょっと問題児だったようですし…
ノーデ:彼女は子供を連れて家を出て、ヨーロッパを転々とする。
ジャック:フランスへは戻らずに?
ノーデ:ルイ14世は彼女に会うのを死ぬまで拒みつづけたということだ。
ジャック:奇遇ですが、ふたりはともに1715年に亡くなっています。
ノーデ:ルイ14世は9月、マリはたしか5月。
ジャック:それにしても、王様はどうしてそんなにも頑なにマリに会うことを拒まれたのでしょうか?
ノーデ:なぜなんだろうねぇ…
フロンドの乱のときにラシーヌは
ジャック:この悲恋を『ベレニス』に取り入れたジャン・ラシーヌは1639年生まれですから、これまたおふたりさんと同じくらいの年齢でしたね。
ノーデ:フロンドの乱がはじまったころは10歳になるやならず。
ジャック:早くに両親を亡くしたラシーヌ先生は、祖母の縁でポール=ロワイヤル修道院の「小さな学校」に入学します。これは1649年。
ノーデ:フロンド暦2年目だな。
ラシーヌの学んだポール=ロワイヤル修道院の周辺では…
ジャック:ポール=ロワイヤルといえば、ジャンセニスムの牙城で、イエズス会と対立し、迫害を受けることになりますが…
ノーデ:ルイ14世も徹底して弾圧する。
ジャック:理由はいろいろあるようですが、フロンドの乱終結後、一部のフロンド派貴族が世を捨ててこの修道院の周辺に集まっていたようですからね。
ノーデ:ジャンセニスムといえば、パスカルが『田舎の友への手紙』という地下文書を書いている。
ジャック:つくづく17世紀は論争文書の時代だと思いますよ。
ノーデ:そして回想録の時代でもある。(つづく)