論争と回想録とマザリナード文書
17世紀は回想録の時代
ジャック:あ、そうだ、回想録といえば、ルイ14世の初恋の相手、マリ・マンシーニさんはのちに回想録を出版していますね。
ノーデ:17世紀は論争文書とともに回想録の時代。
ジャック:いろいろあったので、過去を振り返りたくもなりますよね。
ノーデ:当時の人の回想録にはフロンドの乱に関する多くの記述が見つかる。とはいえ、なにしろ回想録というくらいだから、あとから思い出しつつ記憶を再構成しているのだ。
ジャック:過去は捏造できます。
ノーデ:というか、これぞ私の知る「真実」と信じて書くのだよ。
レ枢機卿の回想録は信じられるのか…
ジャック:民衆煽動家にしてフロンドの乱ではマザラン枢機卿の失脚を狙ったポール・ド・ゴンディさん、のちのレ枢機卿、あの方による回想録は17世紀フランス古典期の散文として今日も高く評価されています。
ノーデ:フロンドの乱の結果、逮捕、投獄の憂き目にあいながら、脱走し、逃亡し、マザラン枢機卿の死後にはルイ14世と和解し、回想録を書いたのだ。
ジャック:当然、フロンドの乱について回顧していますよね?
ノーデ:レ枢機卿の記述は必ずしも事実を伝えていないことがある。
ジャック:証言というのは「藪の中」のような性質がありますからね。人によって、見ているもの、あるいは見せたいものが違う。
ノーデ:そうなると表現の問題なるのだよ。
マザリナード文書は内乱そのものの一部
ジャック:19世紀に初めてマザリナード文書の目録を作ったセレスタン・モローはこんなことを言っていますよ。回想録は事後に、しかし、マザリナード文書はそのときに書かれたものとしての価値がある。
ノーデ:マザリナードは嘘をつく。過激な歪曲や粉飾もある。しかし、そのときにそういう言葉がなぜ出てきたのか…人々にどんな影響を与えようとしたのか…ということが大事なのだ。
ジャック:社会は言葉でできていますからね。
ノーデ:その意味で、ほんとうにこの内乱の世界を理解しようとしたら、マザリナード文書を無視することはできない。
ジャック:しかし、これまではアクセスが難しかったのですよ。
ノーデ:問題はカタログ化だな。
ジャック:それについては『フロンドの乱とマザリナード』第5章をお読みいただきたい。
ノーデ:それゆえカタログ作成の苦労はマザリナード文書研究の歴史とも被るのだ。