1649年8月27日〜9月02日

パリを飢えさせた張本人

ノーデ:嫌われているといえば、パリ市民にとってはコンデ親王も許し難い存在だろう?

本の行商人ジャック:いやいやいや、コンデさんの場合は嫌われているというより、恐れられていますよ。なにしろあの人に包囲されて兵糧攻めにあい、あやうくみんな飢え死にしかかったんですから。

ノーデ:それはまあ、恨まれて当然だね。

ジャック:しかし、当面のコンデさんの敵はパリ市民ではないです。

ノーデ:フロンドの乱の初めから、ずっと宮廷をお守りしてきた英雄を誰がうとましく思うのだ?

ジャック:ノーデ先生、わかっているくせに。とぼけないでくださいよ!

ノーデ:コンデ親王のお働きに関して、宮廷は感謝こそすれども、敵対する理由がない。

ジャック:いえ、あるのですよ。

英雄をどう待遇すればいいのか…王妃アンヌとマザラン枢機卿の悩み

ノーデ:30年戦争でフランスに数々の勝利をもたらし、フロンドの乱では王軍を率いてパリを跪かせた英雄に何を悩ましく思うことがあろうか?

ジャック:いや、それだからですよ。これだけの貢献にどう報いれば、この英雄に満足してもらえるか…筆頭親王家で王位継承権を持つ御仁ですからね。

ノーデ:副王になってもらうというのはどうだろう?

ジャック:先王の弟君、ルイ14世の叔父であるガストン・ドルレアンを差し置いて副王に?

ノーデ:それはちょっとアレだな…ガストンおじさんのご機嫌を損ねるかもしれんな。

ジャック:それに、国王はまだ未成年ですから、副王ともなると実質的に統治者として発言しそうじゃないですか?

ノーデ:まぁ、そうだろうな…コンデ親王はただでさえ態度デカイ系、気位もタカイ系だから、ちょっと面倒だ。

ジャック:いやいやいやいや面倒どころじゃありませんよ。王妃様やマザラン枢機卿にとっては、目の上のたんこぶ以上にたいへんな脅威です。

ノーデ:王妃様も枢機卿も外国人だから、フランスの貴族たちはコンデ親王に味方するかもしれん…

ジャック:そうなると、摂政の地位にあっても、王妃様の実権は奪われてしまう。

ノーデ:マザラン枢機卿だってあぶないぞ。

コンデvsマザランの幕開き

ノーデ:たしかに、宮廷がパリにもどってから、どうもきな臭い、微妙な雰囲気はそこらへんから来ているのか!

ジャック:またまた、とぼけないでください。

ノーデ:いや、めんどうくさいことは避けたいだけよ。

ジャック:9月に入ると、コンデ親王とマザラン枢機卿の対立は誰の目にもあきらかになってきます。

ノーデ:コンデ親王自身も気づいておられよう。

ジャック:あのふたり、もともと仲がいいわけではなかったし、宮廷内の権力争いが表面化するということですね。

ノーデ:そしてここから、後半のフロンド、大貴族たちのフロンドといわれる内乱の激化に発展していく。

ジャック:この9月はまだ、嵐の前の静けさですよ。

ノーデ:来週はルイ14世の11歳のお誕生日だ。

ジャック:なんだか胸がざわざわしますね。

コンデ親王、あるいは大コンデ(コンデ美術館所蔵)