1649年9月10日〜9月16日

マザリネットの縁談の余波

ノーデ:メルクール公爵とマザラン枢機卿の姪の縁談は、コンデ親王の逆鱗にふれた。

本の行商人ジャック:しかし、このご縁組おかげで、メルクール公爵の父、ヴァンドーム公は、海軍元帥の地位を得て、もうひとりの息子、フロンド派のボーフォール公爵の命乞いが受け入れられ、20万エキュという持参金も約束され、万々歳ですよね。

     Cf. 1649年6月17日〜6月23日の「週刊・フロンド日めくり」をご参照ください。

ノーデ:ヴァンドームのじいさんはマザラン枢機卿に取り入ったというわけだな。

ジャック:コンデ親王は、もうこの件についてはなにもおっしゃらないようですが、その分ほかで当たり散らしてしているらしいですよ。

ノーデ:とばっちりを受けた人には気の毒だが、早晩、爆発は免れまいよ。

ジャック:それは怖いですね…

他の貴族の不満分子も集まってくる

ノーデ:気になるのは、コンデ親王がご自身の不満だけでなく、他の貴族の不満も引き受けて、マザラン枢機卿に対峙していることだ。

ジャック:ブイヨン公爵やチュレンヌ子爵が求めているスダンの領地返還とか?

ノーデ:それだけじゃない。姉の夫であるロングヴィル公爵が欲しがっているポン=ド=ラルクの町についても、枢機卿に直談判していらっしゃる。

ジャック:しかし、あそこは、蛮族が侵入した昔から、パリへ攻め込んでくる敵を防ぐための重要拠点でしょ?

ノーデ:そうなのだよ。セーヌは蛇行しているから、進軍にはあそこにある橋が重要。

ジャック:枢機卿もなかなかうんとは言えないでしょう。

ノーデ:ルーアンのすぐ南に位置し、ロングヴィル公はすでにノルマンディーを勢力下に置いているからな…

ジャック:だいたい、ロングヴィルさんはバキバキのフロンド派じゃないですか!

ノーデ:枢機卿は王妃様にご相談するので時間をくれと、お返事を引きのばされたのだが、それをコンデ親王は勘違いして、了承と受け取ってしまったみたいなのだよ。

ジャック:じっさい、王妃様はほかにも貴族がらみの揉め事をいくつか仲裁しなければならないので、このところお忙しいそうですよね。

そしてついに爆発する

ジャック:ノーデ先生、たいへんなことになりましたよ!

ノーデ:また、ジャックの「たいへんだ!」が…

ジャック:先ほど、宮廷の人が話していたのですが、ついにコンデ親王がマザラン枢機卿にご不満を爆発させたようです。

ノーデ:えらいこっちゃ!

ジャック:しかも、コンデ家として看過できないとのご発言。

ノーデ:そうなると、枢機卿にとってはちょっと厄介。

ジャック:そのせいで、さっきから宮廷の人たちもざわざわしてます。

ノーデ:どっちにつこうか、というわけだな。

ジャック:コンデさんは王族の筆頭。枢機卿も彼を敵にまわすのは得策ではない。

ノーデ:これまで王妃様側は、コンデさんの要求を、国家の利益を優先したいといいつつ退けてきた。だが、コンデさんにしてみると、さすがにもういい加減にしてくれということだな。

ジャック:コンデさんにしてみれば、個人的に約束を反故にされたというより、筆頭親王家としての面子や威信を踏みにじられていると怒っていらっしゃるわけですね。

ノーデ:いみじくも、のちにラ・ロシュフーコーさんが『箴言』で言う17世紀のキーワード、「自己愛」がそうとう傷つけられたのやもしれん。