1650年6月22日―6月28日

本の行商人ジャック:読者はお忘れかもしれませんが、行商人ジャック、ジャーナリストの端くれとして、ここは独占インタヴューを企画いたしました。

ノーデ:ジャーナリズム未満のこの時代に…

ジャック:まぁ、そう固いことをいわないで、ノーデ先生。

ノーデ:それでご両人はもう到着なさっているのかね?

ジャック:今、マイクつけていただいているところですよ。あ、来ました!来ました!

世論の力vs軍事力、どっちが強い?

ノーデ:これは、これは、ようこそおいでくださいました。本日の司会進行をつとめますガブリエル・ノーデです。どうぞよろしく。

ジャック:企画および進行補佐の、ジャックです。

テュレンヌ元帥:知ってるとは思うが…われわれは今、反マザランで兵をあげ、取り込み中だからね。

ロングヴィル公爵夫人:スペインの援軍が到着して、これから戦闘開始ってところだもの。

ノーデ:元帥閣下と公爵夫人がお忙しいことは重々承知しております。けれども、ぜひ、一般読者にむけて、少し状況を説明していただけると、たいへんありがたく存じます。

ジャック:メディアで世論を味方につける絶好の機会ですよ!

ロングヴィル公爵夫人:たしかに…この内乱において、私たちは民衆の声というものを十分に利用しきれたかどうか、検証が必要かもですわね。

テュレンヌ元帥:いやいやいや、世論など、何の役にたちましょう。結局のところ軍事力ですよ。武力こそが勝つ!昨年のパリ包囲だって、そうでしょう。コンデ親王の軍隊が首都を押さえこんだからこそ、パリは飢え、降伏せざるをえなかったわけです。

ロングヴィル公爵夫人:そうはおっしゃいますけどね、この内乱の始めから、あれだけたくさんの印刷物が出回ったわけでしょう?とりわけ去年のパリ包囲のあいだには、記録的な数のマザリナードが印刷されています。やはり、これからは世論を味方につけた方がいいのではないかしら?

テュレンヌ元帥:民衆なんて暴動を起こさせる以外に何の役にも立たない。世論など、あの舌先三寸男、ゴンディ協働司教にでも任せておけばいいのですよ。

ノーデ:あー、もしもし、おふたりで勝手にお話にならないで、司会にもしゃべらせていただきませんと…

ロングヴィル公爵夫人:あら、ノーデさん、そこにいらしたのね、忘れていたわ。

テュレンヌ元帥:それで、何の話だったか…ああ、そうか、スペインとの同盟だったね。

スペインとの軍事同盟

ノーデ:さて、おふたりがオランダ総督のレオポルド大公との密約に署名なさったのは4月30日でしたね。

ジャック:読者はお忘れかもしれないので、自称ジャーナリスト未満のわたくしとしましては、ロングヴィル夫人が夫の公爵とともに、30年戦争を終結させるため、ウエストファリア条約(1648年)の締結にご尽力くださり、国際会議ではその美貌でもってたいへんなお働きをした人物であることをここにつけ加えたいと思います。

ノーデ:今回の密約もロングヴィル公爵夫人が率先して交渉なさったとききますよ。

ロングヴィル公爵夫人:テュレンヌさんがいくら貴族や兵士を集めても、国王軍に立ち向かうにはとても足りないのです。テュレンヌさんが当てにしていたスウェーデンの将軍はうんともすんとも言ってこないし。

テュレンヌ元帥:敵の敵は味方。戦さには勝たねばならない。使えるものならなんでも使う。

ジャック:それでスペインにはどんなことを約束したのです?

ロングヴィル公爵夫人:ちょっと、そのお話の前にひとつはっきりさせておきたいのですけど、よろしくて?

ノーデ:はい、どうぞ。

ロングヴィル公爵夫人:そもそもこの政治的混乱を引き起こしているのは、誰?あのイタリア人でしょう?宮廷に巣食っているマザラン枢機卿こそが諸悪の根源なの。そこははっきりさせておいていただかないと。

テュレンヌ元帥:コンデ親王、コンティ公、ロングヴィル公爵の御三方は、あの極悪人のイタリア人によって不当に逮捕されたのだ。我々はなんとしてもあの方たちを解放させる。そのための同盟だよ。

ジャック:つまりこの密約はマザラン討伐のための軍事同盟という解釈でいいですか?

ロングヴィル公爵夫人:私たちが求めているのは正義よ。王国はまちがった道に進んでいる。それをただすことなのです!(宝塚風にポーズを決めて宣言)

テュレンヌ元帥:スペインの国王フェリペ4世も、王国を悪の手から救うために、この同盟を批准された。軍資金の援助も期待できる。

ノーデ:代わりにスペインがなにを要求してくるか…わかりませんけどね。

ロングヴィル公爵夫人:レオポルト大公は、これでフランスの国境地帯に駐屯できるようになるわ。

テュレンヌ元帥:すでに16000~18000人の援軍がスペインからフランスに送られてきている。おっと、たいへんだ! そろそろ前線に戻らねば。

ロングヴィル公爵夫人:わたくしも参りますわ(宝塚風に、そろって舞台の袖へ退場)

ノーデ:すべてがあのおふたりのペースで進んでいく。インタビューしかり、戦局しかり。

ジャック:スペイン・ハプスブルグ家にしてみれば、敵の猛将テュレンヌ元帥の軍が寝返ってフランスの軍隊とぶつかる。これは濡れ手に粟。大喜びでしょうね。

ノーデ:王軍は14000人。数の上では、今の所、やや劣っている。

ジャック:このままではスペイン軍が王国内に入ってきてしまいますよ。

ノーデ:もう入っているさ。今まさに、スペイン軍はフランスの北部で、防御の薄い町を攻撃している。サン=カンタンの北にあるル・カトゥレはすでに落ちた。国境に近いギーズの町にはすでにスペイン軍が駐留している。テュレンヌ元帥の軍も、今、そこにいるのだ。

アンリ・ド・ラ・トゥール・ドーヴェルニュ (テュレンヌ子爵)
ロングヴィル公爵夫人(アンヌ・ジュヌヴィエーヴ・ブルボン=コンデ)