瀉血、なにはともあれ、病のときは瀉血一択
身体ガチャ?17世紀は健康も運しだい
ノーデ:国王と王妃様がアンボワーズ城にご到着だ。
本の行商人ジャック:王妃様のお熱はまだ下がらないので?
ノーデ:うむ、思わしくないのだ。
ジャック:しばらくアンボワーズ城にてご静養なさったほうがよろしいのでは?
ノーデ:そうするしかあるまい。
ジャック:とは言え、パリではムッシューと、今やその腰巾着となって、耳によからぬことを囁き続けるゴンディ協働司教、のちのレ枢機卿が好き勝手しているかと思うと、気持ちばかりが焦りますよね。
ノーデ:日に何度も瀉血をなさっているようだが。
ジャック:瀉血…って、あの血を抜く?
ノーデ:瀉血と浣腸はこの時代の治療の王道。
ジャック:まぁ、この時代、抗生物質とかありませんからね。
ノーデ:生き残るということだけでも、たいへんな時代なのだ。
ジャック:のちの歴史家たちによれば、平均寿命は30代だそうですよ。
ノーデ:乳児死亡率も高いから、たくさん産んでも、育つのはわずかだからな。
ジャック:しかし、貴族は長生きしていますよね?
ノーデ:農民や都市の下層民に比べたら、はるかに衛生環境と栄養状態が良いからだ。
ジャック:ラ・ロシュフーコーさんなんて、この内乱のさなかに戦闘で2度も重傷を負いますが、66歳まで生きる…
ノーデ:ジャック! 私の水晶玉を勝手にのぞいたな!
ジャック:『アルタメーヌ、あるいはグラン・シリュスの物語』を絶賛執筆中のスキュデリー嬢など、100歳近くまで生きると出ていますよ。
ノーデ:運もあるだろう。
ジャック:アンヌ王妃は64歳まで生きるのか…この時代には長生きだといえますが…おお、なんと死因は乳がんなのか⁉︎
ノーデ:400年後ならば、生命を落とさずとも治療できたかもしれんな。
ジャック:おや?ルイ14世はそれより長生き。76歳まで生きる!
ノーデ:王様は暗殺されなければ、長生きできる。
ジャック:食材も一番いいものが提供されるし、狩りなどで運動もしている。寒ければ、服もちゃんと着られる
ノーデ:そもそも住環境がよく、寝台で寝ることができる。
ジャック:貧しい人は床に藁を敷いて寝ているし、寒さを防ぐ壁掛けのタペストリーなどもない。
早逝した父、ルイ13世の病はクローン病
ノーデ:疫病が流行り、飢饉がくれば、庶民はバタバタ死ぬしかないのだ。
ジャック:ですが、ルイ14世のお父上、ルイ13世は41歳でお亡くなりになりになっています。早いのではないでしょうか?
ノーデ:ルイ13世はクローン病だったらしい。
ジャック:この時代の医学的知見ではその診断はつかないですね。
ノーデ:王様の主治医が毎日克明な綴った記録が残っている。何を召し上がって、どういう状態になったか、食事と体調の変化は関連づけられて、逐一記録に残されている。
ジャック:しかし、17世紀にクローン病の治療法も薬もありませんからね。
ノーデ:ひたすら瀉血と浣腸を繰り返したようだ。
ジャック:おつらかっただろうなぁ。消化器官が丈夫かどうかは、人生を左右しますよね。
ノーデ:ルイ13世は、残念ながら、その点、恵まれていなかった。
ジャック:しかし、その子であるルイ14世は食べ過ぎでしょっちゅう胃腸を壊しつつも、天寿をまっとうするわけですね。
ノーデ:まこと、人の寿命というのはわからぬものよな。
ジャック:さて、王妃様のお熱ですが…
ノーデ:瀉血で下げられるものなのか。
ジャック:心配なことですなぁ。

Bibliothèque de l’Université Paris Cité 所蔵
Lambert, Antoine,
Les Commentaires ou les oeuvre chirugicales d’Antoine Lambert…divisez en cinq parties dont les matieres sont marquées à la page suivante. Seconde edition. Reveus, corrigés & augmentés d’observations….
A Lyon, chez Pierre Compagnon & Robert Taillandier, 1671.
