1650年11月3日―11月9日

誰も彼もがフォンテーヌブロー城へ ロビー活動の活発化

本の行商人ジャック:あいかわらず、王妃様はご体調がすぐれないのですか?

ノーデ:そうなのだ。

ジャック:ムッシューは王様が留守の間、パリで国王代理を務めていますから、それなりに相談することもありましょうが、陰謀の影にかならずいるシュヴルーズ夫人なんかもフォンテーヌブローに来ているそうですよ。

ノーデ:いよいよ、王様が首都へご帰還となると、いろんな人がやってくるな。それで、シュヴルーズ夫人はなんだと言って来たんだい?

ジャック:ゴンディ協働司教の件ですよ。

ノーデ:パリに近づくと、また懐かしい名前を耳にすることになる。

ジャック:シュヴルーズ夫人はどうも、あの舌先三寸男ゴンディ協働司教とマザラン枢機卿のあいだをとりもちたいような感じなのです。

ノーデ:協働司教は枢機卿の帽子だけでなく、同時にマザラン枢機卿の地位を狙っているのだから、敬遠されているだろうに。

ジャック:しかし、シュヴルーズ夫人曰く、「あの人は枢機卿の帽子がほしいだけ。そんな大それた野心はない、そのためにマザラン枢機卿と友人になりたい」のだと。いったい、こんな仲介をして、夫人にどんなメリットがあるのでしょうね?

ノーデ:陰謀大好きの夫人のことだ、腹の中で何を考えているかわかったものじゃない。

ゴンディ協働司教は憤死しかねないほどにこじれているようだが…

ジャック:一方で、国璽尚書のシャトーヌフさんも、忠臣を装って、マザラン枢機卿に耳打ちしに来ているらしいです。

ノーデ:シャトーヌフさんは何と?

ジャック:ボーフォール公とゴンディ協働司教のふたりは逮捕すべきだと。あのふたりこそ、国家の安寧を損なう危険人物だとのことです。

ノーデ:あの人たち、以前は親密なお友達だったじゃないか?

ジャック: 宮廷が長く首都を離れていたので、その間にくっついたり、はなれたり。人物相関図も変わってきているようなのです。フロンド派がコンデ派に接近していますし…

ノーデ:話をゴンディ協働司教に戻すと、枢機卿の帽子が欲しくて、欲しくてたまらず、憤死でもしかねない。どうもそのせいでかなり心情的にこじらせてしまっているようだな。

ジャック:それがマザラン枢機卿への憎悪となって膨らんできていますね。

ノーデ:そういう憎悪はひた隠しにしても周囲にわかるものだよ。

ジャック:シュヴルーズ夫人が何と言おうと、ゴンディ協働司教は宮廷にとって要注意人物ですよ。

フォンテーヌブロー城所蔵 ガブリエル_ノーデの『マスキュラ』(2025年 マザリナード・プロジェクト撮影)

マザリナード文書のひとつに数えられるガブリエル・ノーデの通称『マスキュラ』。正式のタイトルは『Jugement de tout ce qui a été imprimé contre le cardinal Mazarin…』と、長いので、登場人物の名前をとって「マスキュラ」と呼ばれています。1649年に出版され、複数のマザリナード文書を文芸批評の方法で評価することにより、政治的に無効化する作戦でした。この評価がたいへん評判になりました。