あ、ルテルが落ちた!でも、取り返す! 王国のため八面六臂のマザラン枢機卿だが…
これほど頑張っているのに?
本の行商人ジャック:ランスの北、37キロのルテルの町がスペインの手に落ちました!と思ったら、フランス軍が取り戻しましたね。
ノーデ:危ないところであった。
ジャック:デュ・プレシ元帥、がんばりました!
ノーデ:元帥のお手柄だ。
ジャック:マザラン枢機卿も前線にいらっしゃるとか。
ノーデ:この勝利を王妃様に知らせたのは枢機卿の前線からの手紙だ。
ジャック:王妃様もさぞお喜びでしょう。
ノーデ:側近によれば、世界で一番美しいダイヤモンドより貴重だとお思いのようだよ。
ジャック:ところで、マザラン枢機卿は兵士たちには評判がいいのですよね。不思議だな〜。
ノーデ:そりゃそうさ、ジャック。枢機卿は軍資金と兵站を惜しみなく運んでくるのだから。
ジャック:そういうところはしっかりと押さえている人なんだよなぁ。
ノーデ:なにしろ枢機卿の得意技はお金を使った人たらしなのだからね。
ジャック:必要な場所には浴びるように使うってことですかね。
ノーデ:そうだよ、ジャック。この時代には、ほぼすべてが某国の官房機密費みたいなもので、枢機卿の裁量でお金が動かせる。
ジャック:マザリナードでは枢機卿の蓄財に関して非難轟々ですが、こういうときに思い切って使う。
ノーデ:まぁ、そういうことだな。国のため、といっても臣民のためではなく、王様のために使うのだ。
ジャック:吸い上げられるこちとらとしては、たまりませんがね。
ノーデ:すべては国王のため…
ジャック:しかしまぁ、これほどお役に立っているのに、枢機卿の評判は悪くなる一方ですよ。
陰謀の芽吹くパリ シュヴルーズ夫人は忙しい
ノーデ:そうなのだ。マザラン枢機卿が北を守るのに躍起になっているあいだにも、マザラン打倒の勢いは増している。
ジャック:テュレンヌ元帥の軍勢は騎兵8000、歩兵4000。対する王軍は騎兵5000、歩兵7000。けっこうな数じゃないですか?
ノーデ:枢機卿がこうしてスペインから国を守っているあいだに、戦火のおよばぬパリで陰謀が進行していく。皮肉な話よ。
ジャック:聞いた話では、シュヴルーズ夫人のお嬢さんがコンティ公と結婚するというじゃありませんか。
ノーデ:それはコンデ親王命のパラティーヌ公女が、あの3度のごはんより政治的陰謀が好きというシュヴルーズ夫人を味方に引き入れようとしてお膳立てしたのだ。
ジャック:エサ、ですかね?
ノーデ:シュヴルーズ夫人にしてみると、これはとりたてていい縁談ではない。
ジャック:お姫様は若くて美しくて、お金持ちで、しかも母方から大貴族ロアン家の、父方からギーズ家の血を引くのですからねぇ。お相手は選び放題じゃないですか?
ノーデ:一方、コンデ親王の弟のコンティ公は、王の血族ではあるものの…こんなこと言ってはなんだが、(小声で)どう贔屓目に見ても、できそこないの次男坊だ。
ジャック:次男坊あるある。しかし、母親のシュヴルーズ夫人はたいそう乗り気だそうですよ。なんでなのかなぁ…
ノーデ:この縁組によって宮廷に戻れたら、また存分に陰謀を楽しめるはずだとでも考えているのさ。
ジャック:シュヴルーズ夫人は若い頃、王妃様と一番の仲良しの側近でしたよね。宮廷でも人気者。だが、ふたりしてキャッキャとルーヴル宮を走り回っているときに、運悪く王妃様が転んでしまい、流産なさった。そのころから先王ルイ13世は夫人を露骨に疎まれるようになり、遠ざけられた。
ノーデ:王妃様とバッキンガム公の間をとりもとうとしたり、スペインと通じたり、オルレアン公をルイ13世と入れ替えようとしたりと、まあ、事件の影にこの人ありと言われるほどのご活躍だ。
ジャック:詳しくはアレクサンドル・デュマ父の『三銃士』、『ブラジュロンヌ子爵』をお読みください。
ノーデ:いずれにしても、この人は陰謀が趣味、というか依存症。だから、つねに何か企んでいる。
ジャック:で、今度はコンティ公と娘の縁組ですか。だけど、それだけで終わるはずはないですよね?
ノーデ:これはなんらかの計画の始まりにすぎないだろう。
ジャック:こわいですぅ〜(と言いながら、期待しているジャックであった)
*本日の表紙はなぜか文末に表示できないので、キャプションだけ独立で以下にあげておきます。
シュヴルーズ公爵夫人の娘、Charlotte-Marie de Lorraine嬢の肖像
「Tampon ovale en noir, en bas de l’image, à droite : “BIBLIOTHEQUE DE NANCY”. Au verso, à l’encre noire, tampon circulaire : “BIBLIOTHEQUE PUBLIQUE NANCY / FONDS THIERY-SOLET”」
