母の涙もむなしく、ガストンとパリ高等法院の利害が一致し、訴えは却下
涙にくれるコンデ母
ノーデ:コンデ親王のご母堂様が息子らの釈放をパリ高等法院に訴え出られたのちの反応やいかに?
本の行商人ジャック:予想通り。パリ高等法院の面々は初めそっぽを向いていたのです。それがとある評定官によって王の叔父であるオルレアン公に伝えるところまではいきました。
ノーデ:「涙ながらに訴える母の姿」というのは、いつの世でも人々の心を動かすものだ。
ジャック:実際、高等法院では皆の前で泣き崩れたとのことです。
ノーデ:あの10世紀に遡る大貴族、モンモランシー家の姫君が法官らを前にひざまずいたとな…
ジャック:ゴンディ協働司教、のちのレ枢機卿などは、それを見て「恥ずかしくて死にそうになった」と。また、王妃様に近い女官は辛辣ですよ。涙という女の武器をつかった…と陰口を。
ノーデ:ふむ、レ枢機卿はコンデさんの宿敵だからな。しかし、それなりに手応えはあったのかな?
ジャック:高等法院の中にもお味方はいないわけじゃないし、大いに同情を買うことには成功しました。
人を動かすのは利害!あるいは保身
ジャック:ところが、なんですよ、ノーデ先生。翌日、パリ高等法院のマチュー・モレさんがご母堂様の言い分をオルレアン公に説明しようとやってくるのですが…なんとすでにオルレアン公は「母もコンデ派の一味」、だから、その訴えは聞く必要がないとのご判断だったのです。
ノーデ:オルレアン公にしてみれば、目の上のたんこぶみたいなコンデ親王を牢屋から出す手助けなんかしたくないだろうさ…。
ジャック:すると、なんと、なんと、フロンド派もそれに同調。パリ高等法院内での勢力を維持したいのと、国家叛逆罪に問われている罪人の側についたと思われることを嫌ったようです。それに、ここで王様に忠誠を示して恩を売っておく方が得ですからねぇ。全力でコンデ母の訴えを潰しにかかった。
ノーデ:おーい、人身保護令はどうした? 過激なフロンド派評定官ブルーセル氏が逮捕されたときは、あれだけ大騒ぎしておきながら。裁判もしないで身柄拘束されるというのは不当逮捕じゃないのか、パリ高等法院?
ジャック:いやいやいや、王妃様もマザラン枢機卿も不在のパリで高等法院に審議させ、これはマザラン枢機卿による不当逮捕ですなんて法官たちが騒ぐなどしたら、それこそ大変ですよ。万が一にもパリ高等法院がコンデ親王らの釈放を求めるようなことになれば、オルレアン公はお留守番としてのご自分の面子も失うことになります。
ノーデ:利害が一致したな。というか、保身?
ジャック:ともかくも、それでコンデ家のご母堂様が高等法院に訴え出た2日後には、もう結論が出ていたのです。じきにお戻りになるはずの王妃様に慈悲を乞うための3日間を猶予として与えられたものの、そのあとはパリ所払いと決まったのです。
コンデ家のおばば様がパリで敗北するころ、コンデ夫人とご子息は…
ノーデ:ところで、コンデ家のおばば様がこうして虚しく不当逮捕の無効を訴えていらっしゃる間、シャンティイ城を密かに脱出したコンデ夫人とご子息は、つまりお嫁さんとお孫さんはどうしているのでしょう?
ジャック:いっさいがコンデ家のご家老様であるレネさんの采配で準備されておりまして。おそらくモンロンあたりでコンデ支持者と合流するだろうと思われます。
ノーデ:ラ・ロシュフーコー公爵もモンロンに向かわれたようだしな。
ジャック:ベルガルド包囲戦の残党も集まっております。
ノーデ:いよいよ動き出した感があるな。
ジャック:それにテュレンヌ元帥がスペインからの援軍を受けいれるらしいのですよ。
ノーデ:それは大逆罪だぞ、ジャック。 ジャック:もはや引き返せない感じですね。

