妻が反乱軍の先頭に立つとき、夫コンデ親王はヴァンセンヌでガーデニング⁈
捕囚の生活やいかに…
本の行商人ジャック:このようにたいへんな動きがあるなかで、ヴァンセンヌ城に幽閉されているコンデ親王、コンティ公、ロングヴィル公爵はどうなさっているのでしょう?
ノーデ:監獄長のド・バールさんはからだを張ってでも脱獄は許さないだろうな。
ジャック:だが…部下たちはユルい?
ノーデ:看守は洗濯物の襟まではチェックしてないようだからね。小さなメッセージを潜ませておくことはできる。
ジャック:それでは、外部との連絡も可能なのですね?
ノーデ:コンデ親王はブイヨン公爵宛にお手紙で「ほんとうに、あなたのような友人を持てたことは幸せである」とか、ラ・ロシュフーコー公爵宛に「私は決して恩を忘れず、生涯にわたって、心からあなたと共にあると断言する」というようなことを書いているみたいだよ。
ジャック:なあんだ、コンデ派、コミュニケーション、バッチリじゃありませんか!
ノーデ:多少お金はかかったようだが、独房より上の階の広い部屋へ移ることもできたようだ。
ジャック:地獄の沙汰も金次第ってやつですね。
ノーデ:病弱なコンティ公の元にはコンデ家の主治医も通ってきている。
ジャック:ふ〜ん。でも、退屈でしょうね。
ノーデ:それが、そうでもないらしいのだ。少しの間ならテラスでの散歩が許されているし、草花を育てることもできる。
ジャック;なんとガーデニング?
ノーデ:弟を訪ねてきた主治医を前に、コンデ親王は冗談まじりにこう言ったそうだ。「私がカーネーションに水やりをしている間に、妻が戦争をしているなんて、いったい誰が想像できただろうねぇ!」と。
ギュイエンヌ地方を目指すコンデ夫人の進軍
ジャック:たしかに…。コンデ家のご家老は相当心配していましたが、奥方様はそれなりに形になってきたようですよ。
ノーデ:あの人もコンデ親王とおなじで、夫人のことを何もできない人のように軽んじていたからな。
ジャック:奥方様、ちょっとお気の毒ですよね。まわりのみんなから軽んじられ、無視されてきた。
ノーデ:まぁ、宿敵のリシュリュー枢機卿に押しつけられた結婚だったから、しかたないといえば、しかたないのだが。
ジャック:コンデ家の方では、奥方様のことを本来の生まれからは望めないほど高い身分に引きあげてやったという思いが見え隠れする。
ノーデ:しかし、その一方で、コンデ親王は妻に接近する人があろうものなら、恐ろしく不機嫌になるのだそうだよ。自分への侮辱と受け取られるようだ。
ジャック:気位が衣裳を着て歩いているようなお方ですからねぇ…
ノーデ:数年前のことだが、あろうことかその夫人に恋心をいだいた貴族がいた。けれども、そんなことが表沙汰になればコンデ親王の逆鱗に触れてどんなことになるかしれないと、周囲が忠告し、身を引いたということだ。
ジャック:想像するだに恐ろしい!
ノーデ:そんなこんなで、奥方様にとって、シャンティイ城での暮らしはさぞや窮屈なことだったろうと察せられるのだ。
ジャック:あの義母とさらにご長女のロングヴィル公爵夫人がいるのですからねぇ。
ノーデ:してみると、このギュイエンヌを目指す旅は、コンデ夫人にとって、そこから解放されるまさに棚ぼたのチャンスだったかもしれん。
ジャック:並の解放感じゃありませんよ、それは。だって、ただの旅行じゃない。フランスの大貴族を何人もしたがえ、6000の兵士と1000人の騎兵の先頭に立って進むのですから。
ノーデ:この旅で、コンデの奥方様は生まれて初めて人生の主役を演じるような気分だったのではないだろうか。
ジャック:ボルドーの町へ到着するのは来週ですね。
ノーデ:さて、奥方様はみごと町の門を開けさせることができるのか…
ジャック:いったいどんな作戦でいくのでしょうか?
ノーデ:それは来週のお楽しみということにしておこう。

