1650年5月25日―5月31日

民衆はどこでも判官贔屓?

本の行商人ジャック:いよいよコンデの奥方様がボルドーにご到着です。船でガロンヌ川を遡っておいででした。

ノーデ:して、町の様子は? 

ジャック:ボルドーのお歴々と高等法院の皆さんにとっては、厄介な客人ってとこでしょうね。

ノーデ:だろうなぁ。町の門を閉ざしていれるなという王命も受け取っていることだし…

ジャック:ところがですね、ボルドーに姿を見せたのはコンデ公の奥方様と息子であるアンギャン公だけだったのです。

ノーデ:コワモテの大貴族たちは離れたところから様子見というわけかな?

ジャック:しかも、民衆は宮廷が送り込んできた総督、エペルノン公爵が大嫌いですからね。狂喜乱舞でお出迎えですよ。「王様万歳、大貴族の皆さん万歳、マザランはあっち行け!」と口々に叫んで、門の鍵を斧で叩き壊した。

ノーデ:ほ、ほう…やるな、ボルドー市民たち。

ジャック:じつはこれ、アンギャン公のお手柄なのです。

ノーデ:アンギャン公って、まだ七歳の子供だったろうが。

ジャック:そこなのですよ。民衆はコンデ公の奥方様とご子息を一目見ようと、押し合いへし合い。そこへ、ひとりの貴族の腕に抱き抱えられたアンギャン公が姿を現した。タララ〜ン!白いタビー織の服に銀と黒の飾り紐、頭には白と黒の羽がついた帽子といういでたちの七歳の少年…

ノーデ:その服装は、喪中だからだな。母方の祖父、ブレゼ元帥が亡くなったばかりだ。

ジャック:喪服に包まれたこの七歳の少年が民衆の心をぐっと掴んだのです。ぐぐっと。聞いておくれでないかい。父はヴァンセンヌ城に閉じ込められ、兵をあげ後ろ盾となってくれた頼みの綱の母方の祖父はソーミュールで急逝。あの極悪の外国人、マザラン枢機卿の魔の手が背後から迫るなか、幼いながらもここまで落ち延びていらしたのですよ、このお子は。嗚呼、可哀想で、ただもう可哀想で胸が痛む…これで心動かされなかったら人でなしだよ…。というわけです。

ノーデ:ジャック、お前の少々芝居がかった描写はいただけないが、ひとことで言うなら、幼いアンギャン公の姿を見せることで、ボルドー市民に市門を開けさせることに成功したのだな。

ジャック:そう、そのとおりですよ、ノーで先生。大歓声とともに、町にむかえいれられた母子には、あれよ、あれよという間に家が提供され、バルコニーから民衆の呼びかけに応える。そこまでにたいして時間はかかりませんでした。

対岸で待つコンデ派の大貴族たち

ノーデ:それで、そのあいだ、ブイヨン公爵やラ・ロシュフーコーさんはどこにいたの?

ジャック:コワモテの皆さんはボルドー市の手前、ガロンヌ川の対岸でロルモンに留まり様子見。

ノーデ:兵士たちも?

ジャック:当然ですよ。ヴィジュアル的に兵士なんて見せたらヤバいでしょ!コンデの奥方様はあくまでも外国人の悪い宰相に迫害を受け、ボルドー市まで逃げてきて、保護をもとめるか弱い女性でなければならないのですから、

ノーデ:ふむ、いかにもはかなげに装い、民衆の同情を引いたのだな。

ジャック:なかなかすごい役者でしょ? でも、それだけじゃないのですよ。この直後にとんでもない事件が起きるのです。

ノーデ:なんだ、なんだ?

ジャック:それはまた来週のお楽しみです!

ノーデ:焦らすんじゃないぞ、ジャック。早く知りたい。

ジャック:夜になると、さっそく宮廷から、つまりはマザラン枢機卿からボルドー市に新たな使者が送られてくるのです。

ノーデ:宮廷が何を言ってくるかは、だいたい予想がつくがね。

ジャック:その使者が民衆につかまって、あやうくなぶり殺しに。しかし、すんでのところで助け出されます。

ノーデ:ほう…

ジャック:ボルドー高等法院はこの使者をどう処遇したものか、困りました。そこでとあるひとに助言を求めた。

ノーデ:だれ? 宮廷のおかかえ総督エペルノン公爵かな?

ジャック:それは来週のお楽しみですから。

ノーデ:まったくもって、最近のジャックはけしからんな。

ジャック:それではみなさま、また来週お目にかかりましょう。

ガロンヌ川に架かる「ピエール橋(Pont de Pierre)」19世紀

投稿日