1650年6月15日―6月21日

スダンとは…

本の行商人ジャック:ブイヨン公爵とテュレンヌ元帥、このおふたりが兄弟であることはすでにお話しています。

ノーデ:兄のブイヨン公爵はルイ13世の時代に反リシュリューの陰謀に加担し、王様に領地を取り上げられていた。

ジャック:そのご領地、スダン公国はフランスの国境地帯にあります。

ノーデ:あそこはただの土地ではないのだよ、ジャック。

ジャック:といいますと…

ノーデ:スダン公国はブイヨン公爵とテュレンヌ元帥の父の代に、父の最初の妻が早逝し、遺産として遺したものだ。そしてこの領地には「小さなジュネーヴ」と呼ばれるほどにカルヴァンの教えが浸透している。

ジャック:しかし、兄のブイヨン公爵は結婚後にカトリックに改宗しています。

ノーデ:カトリックかユグノーかというのは、じつに微妙な問題でな。けっこうコロコロ改宗している。処世術としての改宗もある…ということだけ言っておこう。

ジャック:兄弟の母、つまり先代のブイヨン公爵の2度目の結婚相手はあのオラニエ公ウイレムの娘ですね。

ノーデ:エリーザベト・フランドリカ・ファン・ナッサウ。

ジャック:オランダの歴史に足を突っ込むと沼ですから、ここはスペインから独立したネーデルラント共和国の初代総督であったオラニエ公というお名前だけにとどめておきましょう。

困った時はスペインに相談だ!

ノーデ:さて、そのスダン公国だが、地政学的にも宗教的にも重要な場所であったことはわかるだろう、ジャック。

ジャック:ええ、まぁ、フランス王国としては、要注意の土地ではありますよね。

ノーデ:しかもかなり高い独立性、自治権を保っている領地だったのだ。

ジャック:貨幣も作ってましたみたいな話を聞いてことがありますよ。

ノーデ:それがだ、ご当主、ブイヨン公爵が度々陰謀に加担したせいで、王様に没収されてしまったのだよ。

ジャック:ルイ13世の寵臣で、反リシュリューの陰謀を企てたサン=マール侯爵の誘いにのったのが最後でしたね。

ノーデ:今のマザラン枢機卿に反対するのと同様、帯剣貴族のなかには、王権の強化をバリバリすすめるリシュリュー枢機卿への反発が強かった。

ジャック:サン=マール侯爵は処刑されたのに、この陰謀に加担していた王弟ガストン・ドルレアン、つまり「ムッシュー」はお咎めなし。

ノーデ:王族だからな…。ルイ14世はまだ二歳かそこらだ。万が一を考えれば、王家としてはムッシューを確保しておかねばならないだろう。

ジャック:この陰謀にも、スペインとの裏に密約があった。

ノーデ:王国内の陰謀の陰にはかならずスペイン・ハプスブルグ家あり…

ジャック:それで、このときサン=マール侯爵の陰謀に加担したブイヨン公爵家は、ほぼ独立国家なみの自領スダン公国を取りあげられてしまった…。

ノーデ:兄のブイヨン公爵も弟のテュレンヌ元帥も、スダン公国を自分たちの手に取り戻したいのだ。

ジャック:そこでまたスペインに相談だと…。

ノーデ:スペインにとっては渡りに船さ。

スダン公国の地図(1632年)http://catalogue.bnf.fr/ark:/12148/cb420580
フレデリック・モーリス・ド・ラ・トゥール・ドーヴェルニュ (ブイヨン公)の肖像
フレデリック・モーリス・ド・ラ・トゥール・ドーヴェルニュ (ブイヨン公)の肖像
アンリ・ド・ラ・トゥール・ドーヴェルニュ (テュレンヌ子爵)