1650年7月14日―7月20日

エペルノン公爵解任問題

ノーデ:というわけで、7月のボルドーはとんでもないことになっているのだ。

ジャック:ところで、ノーデ先生、ボルドー高等法院は独自にいろんなことを決められる組織なのですか?つまり、この事態に、パリの高等法院はどのくらい関与してくるのでしょう?

ノーデ:そこがまた、ことを複雑にするのだよ、ジャック。首都パリの高等法院は王様の政治に直接かかわるので、その権威は別格。

ジャック:税金をあげようとする王令もパリ高等法院で登録されなければ、効力を発揮しないのでしたよね。それに先王の遺言を破棄できるような力さえもっている。

ノーデ:各地にある地方の高等法院はこの首都の意向を無視して動くわけにはいかないのだ。

ジャック:目下のところ、ボルドー高等法院が抱えている悩ましい問題はふたつありますよ。

ノーデ:まず、ここまで徹底して民衆に嫌われているエペルノン公爵を解任してもらいたい。そしてもうひとつは、ブイヨン、ラ・ロシュフーコー両公爵がさかんに煽ってくるフロンドの風を沈静化させたい。

ジャック:どちらも、ボルドーだけで解決するには、ちょっと荷が重過ぎるような気がします。

ノーデ:そこで、エペルノン問題に関しては、ボルドー高等法院から首都へ応援要請を派遣した。

ジャック:これはもうパリ高等法院に力を貸してもらうしかない。

ノーデ:しかし、パリ高等法院にも、地方総督を解任する権限はないのだ。

ジャック:すると、国王代理としてパリに残るオルレアン公にお願いするしかありませんね。

ノーデ:ボルドー高等法院にとって幸いなことに、オルレアン公、すなわちムッシューは理解を示し、エペルノン公爵をギュイエンヌから遠ざけようと約束してくれた。が、しかし…

ジャック:が、しかし?

ノーデ:ここでエペルノン問題があらぬ方向に飛び火する。

エペルノン解任問題の波紋

ジャック:と、もうしますと…

ノーデ:パリ高等法院では、一部の評定官が、任命権者の責任を追求しようと意気込んだ。

ジャック:え〜っと、任命したのは王様ですが、実質的にはマザラン枢機卿、ですよね?

ノーデ:そもそもこの問題はマザラン枢機卿がエペルノン公爵なんぞを地方総督に任命したのが間違いの元だというのだ。

ジャック:これも「全部、マザランのせい」!

ノーデ:それだけにとどまらず、ボルドーに大貴族が集合しているのだって、マザラン枢機卿が勝手にコンデ親王を逮捕したからではないか、囚人を解放した方がいいのではと。

ジャック:やれやれ…当然、議場は反マザラン旋風で混乱しますな。

ノーデ:このエペルノン公爵解任をめぐっては、さらにこのあと宮廷内にも波紋をおよぼす。

解任したくないマザラン枢機卿と解任しようとするオルレアン公とが対立するのだ。

ジャック:外では内戦、内では権力争いか。ひとときも気の休まらぬ情勢ですなぁ…

Le Palais de l’Ombrière au XVIe siècle, tiré de l’Histoire des Monuments de Bordeaux de Guillaume-Auguste Bordes (1803-1868). Dessin de Guillaume-Auguste Bordes. Gravure d’Adolphe Rouargue (1810-1870)