1650年7月7日―7月13日

誰もが嫌うエペルノン公爵

ノーデ:宮廷は無事にパリをご出立になった。休む間もなく。

本の行商人ジャック:お留守番はムッシューことオルレアン公、そして国璽尚書のシャトーヌフさん、そして…パリ高等法院のフロンド派という、ちょっとあぶないメンバーです。あと、そうそう、マザラン枢機卿の残したお目付役、国務尚書のル・テリエさん。

ノーデ:それから、あのゴンディ協働司教もパリ居残り組だということだ。

ジャック:あの舌先三寸男、人を煽るのが趣味のゴンディ協働司教。なにか企んでやしませんかね…

ノーデ:王妃様とマザラン枢機卿は旅先にいても、ル・テリエさんからパリの状況について逐一報告を受け、把握している。

ジャック:まぁ、それでもタイムラグがありますからね。

ノーデ:さて、ここで宮廷が向かっている1650年7月のボルドーを理解するために、時間を少し巻き戻す必要がある。

ジャック:宮廷からギュイエンヌ総督に任命されたエペルノン公爵は暴君と呼ばれるようなお方で、ボルドーの人たちからは総スカンをくらっています。

ノーデ:そのボルドーでは、6月にコンデ親王妃を保護した直後、さっそく事件が起きた。

ジャック:宮廷擁護のビラを撒いた次席検事の家が襲撃されたのでしたね。

ノーデ:ボルドーの市民感情は反マザランなのだ。これが大きな暴動に発展しないともかぎらないと心配された。

ジャック:それでエペルノン公爵は治安維持のために兵を配備し、宮廷からもメイユレ元帥が派遣されてきた。ものものしい雰囲気になってきましたね。

ノーデ:ボルドー市民にしたら、エペルノン公爵に大きな顔をされて、気に食わんだろうな。

ジャック:ボルドーの人々はふたつに分かれているようです。

ノーデ:高等法院の穏健な法官たちや裕福なブルジョワ市民たちは、エペルノン公爵を嫌ってはいるが、しかし、同時にコンデ派の大貴族や民衆蜂起も恐れている。どちらも刺激しないように、できるだけことを穏便に運びたいところだ。

ジャック:まぁ、そうでしょう。

ノーデ:しかし、もう一方には、失うものがない民衆がいて、彼らはボルドーに駐留するコンデ派の大貴族たちを応援している。彼らは反マザラン、反エペルノンで、追い出すためなら外国の軍隊に援助を求めるのもありだと考えている。

ジャック:外国の軍隊ですって?!

スペインの軍艦がやってきた!

ノーデ: じつは、6月の半ばに、ボルドーにいるコンデ派の大貴族たちもスペインに使者を送っているのだ。そして軍事的・経済的援助を求めた。

ジャック:またここでも頼みの綱はスペインですかい?

ノーデ:スエーデンよりは頼りになるからな。むこうさんも敵(フランス王国)の敵(反マザランのコンデ派)は味方で、利害が一致している。

ジャック:それでスペインから援軍が来たと!

ノーデ:軍艦3隻がボルドーの港へ入ってきた。しかも、スペインからの大使を乗せてな。

ジャック:ひぇ〜、どうするのですか、この大使?上陸を許したら、王様に反逆したとみなされてしまいますよ!

ノーデ:たしかに、ジャックの言うとおり。仮にもギュイエンヌ地方における君主の権威を代表する立場であるボルドー高等法院だ。王様の敵を町に入れるわけにはいかない。

ジャック:どうするのです? 追い返す? 無視しつづける?

ノーデ:そこで、ボルドー高等法院が下した決断は…

ジャック:何、何、何?

ノーデ:市民にスペイン大使の船を攻撃せよと命じることだった。

ジャック:ちょ!…やんのか、ボルドー、マジで⁈

ノーデ:落ち着け、ジャック。これには裏がある。

ジャック:早くいってくださいよ、それを。

ノーデ:この命令は実行されない。コンデ派の大貴族たちにもあらかじめそう伝えてあった。

ジャック:なぁんだ、そうか、フェイクね。心配して損した。

ノーデ:だが、それだけではおさまらなかった。

ジャック:もう、何が起きても驚かないぞ…

ノーデ:この命令を聞きおよんだ民衆が武器を携えて、ボルドー高等法院におしかけたのだ。

ジャック:やっばい…民衆蜂起だ!

ノーデ:幸いにも、ボルドー市長らと裕福な市民たちが雇った民兵により、高等法院は解放された。だが、民衆の圧力に屈して大貴族たちとの連帯を裁決せざるを得なかったのだよ。それがこの11日。

ジャック:いよいよ追い詰められるボルドー…

Duc d’Espernon, gouverneur de Guyenne

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