ヴァンセンヌ城聖地巡礼 17世紀プレシューズたちの推し活⁉︎
サロンの花プレシューズたち
ノーデ:コンデ親王、コンティ公、ロングヴィル公爵の3人は無事にマルクシに移されたとのこと。あそこも要塞だから警備は万全。
本の行商人ジャック:そのあとが、なんですが…
ノーデ:なに?
ジャック:いえね、コンデ親王たちが今年の1月から幽閉されていたヴァンセンヌ城、そこをまるで聖地のごとくに訪れるひとたちがおりまして…
ノーデ:誰?
ジャック:プレシューズと呼ばれる女性たちなのですがね。
ノーデ:ああ、ランブイエ侯爵夫人のサロンに集まっていた才媛たち。
ジャック:サロンでは女性たちが主役です。
ノーデ:あのサロンはフランスの文学史に残る歴史的な出来事だよ。大貴族からブルジョワまで、当時の教養人がこぞってランブイエ侯爵の元に出入りしていた。
ジャック:青春時代のコンデ親王もしかりですよね。
ノーデ:プレシューズと呼ばれる女性たちは、そのなかで生まれた。フランス語の洗練に熱心な人たちだ。
ジャック:凝った表現で知られていますけれどね、ノーデ先生、洗練も行きすぎると滑稽になりますよ。
ノーデ:ジャック、そこは気をつけて区別しないといけないよ。世の中には正しい洗練とそうでない洗練がある。滑稽なのは逸脱した偽物の洗練だ。
ジャック:たとえばですね、物を直接名指すことを避ける。つまり「愛」という言葉をつかわずに愛を表現する工夫とか…
ノーデ:彼女たちによれば、鏡は『美の忠告者』と呼ばないといけないそうだからな。
ジャック:やりすぎの感のある滑稽な才女たちは、いずれモリエールさんのお芝居でからかわれるでしょうよ。『才女気取り』とかなんとかで…
ノーデ:それで、そのプレシューズさんたちがヴァンセンヌ城に聖地巡礼していると?
『アルタメーヌ、あるいはグラン・シリュスの物語』
ジャック:わたしが思うに、どうも、スキュデリーさんの影響ではないかと…
ノーデ:スキュデリーさんといえば、兄と妹で小説を書いたりしている、あの文人として有名な兄妹?
ジャック:とりわけ、妹さんが率先してヴァンセンヌ城に聖地巡礼しているとのことです。
ノーデ:そういえば、あの兄妹は、今まさに『アルタメーヌ、あるいはグラン・シリュスの物語』とかって、小説を書いているのではなかったか…
ジャック:そのとおり! あの小説の第一巻が出版されるのが1649年。まさにフロンドの乱勃発の翌年で、執筆は現在進行形でつづいています。そしてその主人公のモデルはコンデ親王。
ノーデ:何、それ、推し活? 17世紀プレシューズたちの推し活?
ジャック:昔から、フィクションに関連した聖地巡礼ってあったのですね。
ノーデ:いや、ジャック。コンデ親王は2次元じゃないから。実際にヴァンセンヌ城に幽閉されていたわけで、3次元、実在の人物。
ジャック:妹のスキュデリーさんは、そこで、詩などを捧げているみたいですよ。
ノーデ:なんかこう…オタク?
ジャック:17世紀の推し活はうちわじゃなくて、詩なのですね。グッズを手作りする感覚なのでしょうか。
ノーデ:プレシューズさんたちのアイドル、コンデ親王?
ジャック:『アルタメーヌ、あるいはグラン・シリュスの物語』って、どんな小説なのでしょうか。
ノーデ:ギネスブックに世界一長い小説として登録されているプルーストの『失われた時を求めて』よりも長くなりそうな話だ。
ジャック:そこをもう少し詳しく!
ノーデ:では、来週!

