パリへ凱旋するコンデ親王 迎える民衆
嫌悪から歓迎へ 民衆の手のひら返し
本の行商人ジャック:ノーデ先生、マザラン枢機卿がパリを脱出なさると入れ替わりに、コンデ親王ら昨年から囚われていた3人の大貴族がお戻りになりましたね。
ノーデ:ジャックも見たであろう。まるで凱旋する将軍たちのように迎え入れられる御三方の姿を。
ジャック:オルレアン公がお迎えに出て、そこでボーフォール公とゴンディ協働司教をコンデ親王にお引き合わせになり…
ノーデ:道々、沿道を埋める民衆の歓声に迎えられつつ、コンデ、コンティ、ロングヴィルら御三方はパレ=ロワイヤルまで先導されていく。それにしてもパリの民衆は大歓迎だったな。
ジャック:ええ、ええ、驚きますよ。だって、昨年の1月には「コンデ逮捕」の知らせに狂喜乱舞した民衆が、今度は歓呼の声をもって御三方をお迎えするのですから。
ノーデ:パリの民衆はちょうど2年前、1649年のこの時期に、フロンド派の立て籠る首都がコンデ軍に包囲されたため、兵糧攻めであやうく死にかかった。苦い記憶があるはずなのだが。
ジャック:あのとき、コンデ親王は王妃様側でしたからね。
ノーデ:パリの民衆にとっては、宗教戦争のときのサン=バルテルミーの虐殺がふたたび記憶によみがえる。また無差別に殺戮されるのではないかと、震えあがったものだよ。
ジャック:パリの民衆は、それゆえ心の底では、コンデ親王にはいい印象を持っていない…
ノーデ:むしろ嫌っている。飢え死にさせられるところだったのだからな。その恨みは骨の髄まで染み込んでいる。
ジャック:にもかかわらず、たった一年で手のひらを返したように、同じ民衆が今度は「コンデ親王 万歳!」と歓迎する。わかんねぇなぁ…
民衆は儚い期待に翻弄される
ノーデ:民衆とはそんなものさ。
ジャック:ほんに移ろいやすきは民の心。一転して嫌悪から歓迎へと変わる。
ノーデ:今のところは、コンデ親王の帰還により王国の秩序が回復するだろうと期待しているのだ。民衆にとっては、何をおいてもまず日常生活を取り戻すことが大事だからな。
ジャック:まぁ、いいですけれどね。でも、それでほんとうに平穏に暮らせるようになるのか…
ノーデ:それはわからん。そもそも力を持つものは誰もそんなところまで考えておらんよ。だが、とりあえず、そう期待させることさえできれば、民衆は味方となってついてくる。だいたい君主の治めるこの国で、いったい誰が民衆に政治的意見など求めるかね?
ジャック:民衆がどう思うかなんて、誰もきいちゃいませんよ。 マザリナードには「民の声」ってやつがあふれていますがね。いったい誰の声なんだか。
ノーデ:そうだろう。民衆は、数でしかない。そして暴動のような形でしか、その存在を表現できない。
ジャック:そこには「政治」という意識さえも芽生えていないですね。
ノーデ:だから、私は、本のなかで、民衆は動物のようなものだと書いたのだ。まぁ、民衆が目覚めて政治に参加するようになったら、こっぴどく批判されるだろうがね。
ジャック:そもそも民衆は、いつだって支配者の決定に翻弄される。
ノーデ:目端のきいたものは、なんとか自衛しつつ政治の変化を乗り切っていくだろう。だが、その日暮しの貧しいものは刹那的にならざるをえない。今日食べられるパンを探すのがやっとなのだから、社会に対して長期的展望など持ちようがないのだ。
ジャック:う〜ん、いつになったら、おいらのような庶民の意見が政治に届くのだろう。
ノーデ:せいぜい、鋭い舌鋒のマザリナードを売ることだ、ジャック。

