宮廷という名の権力闘争の場
宮廷という名の権力闘争の場
ノーデ:マザラン枢機卿は亡命することによって、言ってみれば、闘技場の扉を開いたのだ。権力闘争という名の闘技場の扉をね。
本の行商人ジャック:宮廷を闘技場に変えた…
ノーデ:誰もが、宮廷の中での地位の上昇を賭けて争っている。
ジャック:しかも、できるだけ早く昇りたい。
ノーデ:そうだ、9月5日にルイ14世が誕生日をむかえ、成年に達するまでに、できるだけ良い地位を獲得しておきたいと考えるのだ。
ジャック:枢機卿はこれをどの程度見越していたのでしょうかね。
ノーデ:さぁて、どこまで計算していたのか…。
ジャック:しかし、宮廷内の風向きというのは、急に変化するものでしょう?
ノーデ:じわじわと変わっていく場合もあれば、突然、ひっくり返る場合もある。
ジャック:とりわけ、こうした政治的に不安定な場合には、意図的に暴動を起こすこともある。
ノーデ:それこそがゴンディ協働司教、のちのレ枢機卿の得意分野だからな。
ジャック:先日も、ある人が王妃様のご機嫌を損ねて解任されたので、ムッシューがごご不快を表明されるや…ゴンディ協働司教がすかさず「パリのブルジョワに武装蜂起させましょうか」と提案していますね。
ノーデ:そういう話となると、ボーフォール公がすぐに乗ってくるな。
ジャック:まるで火薬庫ですな。
コンデ親王とて、例外ではない
ノーデ:そう。そして、誰が誰に罠をしかけてくるかわからない。
ジャック:盟約を結んで、誰かを陥れようとすることさえありますね。まぁ、シュヴルーズ夫人のように、それが趣味、いやむしろ生きがいという人もいます。よくまあ、次から次に思いつくものだと感心します。
ノーデ:そんな中では誰だって、疑心暗鬼にならざるをえないさ。
ジャック:戦場では勇猛な武将であるコンデ親王でさえも、例外ではないと…
ノーデ:コンデ親王はそのお血筋、王族という最強のカードをもっているわけだが、それゆえに、これまではまさか自分がおとしいれられるはずがないと思っていた。
ジャック:だけど、あれでしょ? 2年前の1月、姉のロングヴィル夫人が「雲行きがあやしいから、行くな」と止めたのに、宮廷からの呼び出しにのこのことパレ・ロワイヤルに出向き、逮捕され、ヴァンセンヌ城に幽閉されてしまった。
ノーデ:おそらく、あの経験に懲りて学習はされているだろうが…。
ジャック:コンデ親王とて、例外ではない。油断はできませんね。
ノーデ:宮廷とは、強いカードと見なされれば見なされるほど、生命の危険も増すところなのかもしれぬ。
ジャック:まるでサバンナですね。
ノーデ:そこで孤立するのは危険なのだ。
ジャック:自分の影にも怯えるようになる。そして怯えれば、そこにつけ込まれる。
ノーデ:しかし、権力というものを考えるときには、じつに興味深い実験室だよ。
ジャック:おいらはそこからできるだけ遠いところにいたいと思いますよ。こわい、こわい…

