1651年7月26日―8月1日

セーヌ川の水浴と馬車のニアミス

本の行商人ジャック:ノーデ先生、ノーデ先生!

ノーデ:なんだ、騒々しい。

ジャック:王様がブローニュの森で泳がれたそうです!

ノーデ:そりゃ、泳いだりもするだろうよ、夏だもの。

ジャック:問題はその帰り道なんですがね。

ノーデ:どうしたのだ。

ジャック:王様のお馬車がコンデさんとヌムール公の乗った馬車とすれちがったのですって。

ノーデ:うわぁ、ニアミス。それで何事もなく通り過ぎられたのかい?

ジャック:コンデ親王はうやうやしく挨拶をなさったとか。

ノーデ:その場で拘束されずに?

ジャック:水遊びの帰りですからね、そんな不意打ちの用意はしていませんよ。

ノーデ:だが、あとで後悔することにならんともかぎらんぞ。あの時、ああしておけば…と。

ジャック:そういう場面って、ちょくちょくありますよね。歴史にifはないとも言われますが。

ノーデ:同行していたヴィルロワ元帥がその非難を受けることになろう。

反コンデ包囲網

ジャック:しかし、この時、コンデ親王もヌムールさんも、馬車からお降りにならなかった。

ノーデ:それは不敬きわまりないぞ。

ジャック:そこはやはり警戒していたのでしょうね。

ノーデ:ともあれ、王様の水遊びが無事に済んでよかった。

ジャック:王妃様はここのところますますコンデ親王への警戒を強めていらっしゃいますからね。

ノーデ:フロンド派もそれに歩調を合わせるように反コンデで、攻撃しようと狙っている。

ジャック:フロンド派はコンデ親王解放に協力した恩を忘れたかとお怒りのようですね。

ノーデ:そんなことが民衆に知れると、フロンド派は宮廷寄りとみなされ支持を失うかもしれん。まぁ、民衆の意見というのは変わりやすいものだからな。

ジャック:一方で、ゴンディ協働司教、のちのレ枢機卿はコンデ派に対し、特にラ・ロシュフーコーさんに対する恨みを深めているとか。

ノーデ:それは、あれだ、きわめて個人的な怨恨だな。

ジャック:フロンド派シュヴルーズ夫人の娘とコンデ家の末っ子、コンティ公の縁談をぶち壊されたと恨んでいるのです。

ノーデ:あの縁談はフロンド派とコンデ派を結びつけるはずのものだった。

ジャック:だけど、破談になったのは、ラ・ロシュフーコーさんのせいとばかりはいえないですよね?

ノーデ:反対も多かったから、誰が壊したともいえない。壊れたのだ。

ジャック:しかも、シュヴルーズ夫人の娘さんて、ゴンディ協働司教の愛人ですよね?どうもわからないなぁ…。庶民の感覚とはかけ離れていますから。

ノーデ:そこがあの人のあの人たるゆえんよ。何より人心を操ることが三度の飯より好き。というか、愛人も含めて、何もかも、人を意のままにするための政治的な道具なのだろう。

ジャック:結婚によりコンティ公をフロンド派に引っ張って、コンデ派を操る道具にしたかったということですか…。

ノーデ:うまくいきかけていたのに潰されたと。ラ・ロシュフーコーさんはちょっと逆恨みされているようなものだな。

ジャック:ラ・ロシュフーコーさんの馬車が3度も襲撃されたのは、それと関係があるのでしょうか?

ノーデ:それはわからん。誰が襲わせたのか、犯人は不明だ。

ジャック:しかし、ラ・ロシュフーコーさんは自分に向けられている憎悪には気づいているはずですよね。

ノーデ:このふたりの間に何も起きないことを祈るよ。