1651年9月27日―10月3日

ポートレートを刷新した本の行商人ジャックが語る(1)17世紀フランスの印刷・出版業界

本の行商人ジャック:先週の22日、コンデ親王はボルドーへ到着なさったようです。

ノーデ:いよいよ動き出したな。フロンドの乱シーズン2。

ジャック:これから山場に向かいますね。今は嵐の前の静けさとでもいいましょうか。

ノーデ:そこで、ジャックよ、そなたの新しいポートレートもできたことだし、少し、我々の間で進めてはどうかと思う。つまり、その印刷・出版業界の先端を行っているジャックの話を聞こうかと思うのだが、どうかな?

ジャック:ようござんすよ。どんなところから話しましょうか?

ノーデ:まずは17世紀の印刷業界の状況だな。

ジャック:しかし、それはこの度電子書籍化された『フロンドの乱とマザリナード』の第3章にまとめられていますよ。

ノーデ:ふむ、たしかに…

ジャック:あそこに書いてないことで、本の行商人として何が伝えられるかなぁ…

ノーデ:そういえば先週、フランスの新教徒ユグノーの話が出ていたが、それに関しては何かないかな?

フランス史上、大量の印刷物が出現するのは3回

ジャック:ユグノーの問題は後世の人々にとって、単なる歴史の1ページとしか認識されないかもしれませんが、おいらたちの時代はまだプロテスタントとカトリックの対立を生きているのです。

ノーデ:フロンドの乱が起きた年の夏、またサン・バルテルミーの虐殺(1572年)のようなことが起きてパリが血まみれになるのではと市民たちは震えた。16世紀のユグノー戦争はそんなに遠い記憶ではないのだ。

ジャック:それにアンリ4世によりナントの勅令(1598年)で宥和政策が取られた後も新教徒への迫害は続いていましたからね。

ノーデ:そういえば、あの内戦、カトリック同盟ができた時もたくさんの印刷物が巷に出回ったのだったな。

ジャック:そうですよ!印刷術が登場してから、フロンドの乱の前にも印刷物が大量に出現した時期があるのです。それが宗教戦争!

ノーデ:なんかこう、未来にもう一度、そういう時期がありそうな予感がする…。いつとはいえないが…。

ジャック:次に印刷物が大量に出現するときは、体制がひっくり返るような事件が起きる時だと思いますよ。

ノーデ:世論の力が増していくことになろう。

ジャック:一方、フロンドの乱に旧体制転覆の予兆のようなものを見る人もいますが、それはちょっと早合点ですよね。

悪いのは外国人の宰相マザランであって、王様は被害者

ノーデ:フロンドの乱では体制の転覆どころか、君主制の否定など、誰も考えておらんのよ。まぁ、中にはそういう人がいたかもわからんが、パリ高等法院が目指したのも、大貴族たちが目指したのも、そこじゃない。

ジャック:国王が幼いのをよいことに、摂政の王妃を操り、王国を勝手に牛耳っている外国人の宰相、マザランこそがフランス人の舐めさせられている辛酸の根源だと見なされていますからね。だから、巷に溢れ出るのは「マザランの所業」を糾弾する文書、マザリナードなのですよ。

ノーデ:マザリナードでは摂政王妃アンヌ様も誹謗中傷に晒されているが、王様が攻撃されたことはないのだ。

ジャック: 非難しようにも、まだ成年前ですし、政治に関わっていませんからね。マザリナードにおいて王様は無傷なのです。むしろマザランや外国人の王妃様から守りしなければならないお方なのですからね。

ノーデ:ちょうど同じ時期に清教徒革命が起きたお隣の英国では、王様の首が切られてしまったがのう…

ジャック:チャールズ1世が処刑されたのは1649年。フランスではパリ高等法院を中心にフロンドの乱の真最中。

ノーデ:だが、フランスでは王様をどうこうしようという話には全くならなかった。

ジャック:ルイ14世が少年だからというだけでなく、王様はこの社会の頂点にして身分社会の要なのですから、それを取っ払ってしまったら、秩序が失われてしまいます。

ノーデ:実際、パリ高等法院の面々にしてからが、お金を積んで官職を買い、王様に身分を保証してもらっているわけだからなぁ。

ジャック:身分の序列も王様に近い順に高位となるわけで、そうした尺度もなくなってしまいます。そんなことをしたら、社会は崩壊してしまいます。王様はいるのが当たり前の存在ですからねぇ。その権力は神から託されたものですし、その意味で尊い、聖なる存在なのですよ。

ノーデ:しかし、チャールズ1世処刑のニュースはフランスでも人々を震撼させたぞ。

ジャック:特にパリ高等法院には衝撃的なニュースでしたね。王様を処刑ですとぉぉぉぉ!?となった。 

ノーデ:海を隔てるだけで、こうも違うのだな。

ジャック:極端ですよね(つづく)


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