たかが腰掛け、されど腰掛け ラ・ロシュフーコー殿の奥方に与えられることになったお腰掛特権をめぐる騒動
ついに念願の、国王の前で妻が腰掛けられるという特権を得たラ・ロシュフーコーさんでしたが…
ノーデ:さて、身分社会というものが、いかに特権とそれによる序列によって構成されるかを垣間見たわけだが…
本の行商人ジャック:話をラ・ロシュフーコーさんに戻しましょうか。
ノーデ:あの人が今や台風の目みたいになっているからのぉ。
ジャック:まだお父上がご存命なので、ラ・ロシュフーコーさんは、この当時は、マルシャック公子とお呼びしたほうがいいでしょうか?
ノーデ:しかし、マルシャック公子という呼び名は極東の平たい顔の人々にはわかりづらいだろう。
ジャック:それじゃ、このままラ・ロシュフーコーさんという呼び方でいきましょう。でも、どうしてあの方が台風の目に?
ノーデ:それは奥方のために例の腰掛け、王様の前で座ることができる特権をついに得ることができたからだ。
ジャック:なぜ、それが問題になるので?
たかが腰掛け、されど腰掛け
ノーデ:考えても見てご覧、あのラ・ロシュフーコーさんの悲願だったということは、この特権がいかに貴族にとって重要なものであるか。
ジャック:ただの腰掛けなのですけれどねぇ、それが、そんなに大事なんですか?
ノーデ:じつはラ・ロシュフーコーさんと同時に、もうひとり、お腰掛け特権を得たご婦人がいる。
ジャック:ああ、昨年、死亡されたド・ポンス殿のご妻女ですね。
ノーデ:彼女は亡くなった夫を介して、名門のダルブレ家につながる。
ジャック:え〜っと、ダルブレ、ダルブレ、誰だったっけ、あ、ジャンヌ・ダルブレだ!
ノーデ:そのとおり。ナヴァール王家のジャンヌ・ダルブレは、ブルボン朝の初代国王、宗教戦争をおさめたアンリ4世の母だ。ルイ14世の祖父となるアンリ4世の母。その血筋だ。
ジャック:ということは、ルイ14世の祖父となるアンリ4世の母…しかし、それはあくまで夫を介してつながるというだけのことですよね。
ノーデ:それでも自分はダルブレ家のものだと名乗ることはできる。
ジャック:このド・ポンス夫人、なかなかしたたかで、今年のクリスマスにはリシュリュー公と再婚するようですよ。ただし、ここだけの話ですが、どうもそのあとが波瀾万丈。夫は大金持ちだったのに借金まみれになり、のちにルイ14世の宮廷を震撼させる毒殺事件にもかかわるし…
ノーデ:それはとりあえず置くとして、ド・ポンス夫人にはロングヴィル公爵夫人が後ろについている。
ジャック:へぇ…そうなのですか。
ノーデ:ラ・ロシュフーコーさんも、ロングヴィル夫人の推し。
ジャック:それはまぁ、恋人だったわけですからね。
ノーデ:弟のコンデ親王に近いラ・ロシュフーコーさんの格があがれば、弟の格もあがる、という姉の思惑もあったらしい。
ジャック:筆頭親王家ですから、格もなにも関係ないと思うんですが…ひとときも弟のことを忘れないのですね。
ノーデ:弟こそ王位にふさわしいと考えておるのでな。
ジャック:ところが、ところが、このラ・ロシュフーコーさんの奥方とド・ポンス夫人のおふた方に、このたび王様の前で腰掛ける特権が与えられることになったことで、内乱がおさまってなんとか静かになった宮廷に、また一波乱起きる…と、こういうわけですね。
ノーデ:続きはまた来週!