ポートレートを刷新した本の行商人ジャックが語る 17世紀フランスの印刷・出版業界 (2)
印刷物の政治的利用法:政府広報の『ガゼット』の発行
本の行商人ジャック:宮廷は今、パリを離れてベリーへ移動中。
ノーデ:フランスの王様というのは昔からひとつところに鎮座ましましていることが少ないのだ。
ジャック:ロワール河畔にあれだけ点々とお城があるのもそのためですね。
ノーデ:文字通り、王様は点々としているのだ。
ジャック:点々といえば…国王づきの印刷業者も、宮廷と一緒に移動していますよ。
ノーデ:テオフラスト・ルノドさんのことかな?
ジャック:息子さんたちはパリに残っているようですが。
ノーデ:ルノドさんはルイ13世の時代にリシュリュー枢機卿の肝いりで週刊誌『ガゼット』を編集発行するようになった。
ジャック:それゆえにジャーナリズムの祖といわれるのですね。
ノーデ:元は医者だがね。
ジャック:17世紀人は多方面でマルチに活躍するがふつうだから、驚くには値しませんね。
ノーデ:かくいう私ノーデも元は医者です。
ジャック:マザラン枢機卿の図書館を任されたので、皆さん、ノーデ先生は司書だと思っていますよ。図書館学の祖として歴史に残っていますし。
ノーデ:それはともかく、リシュリュー枢機卿は印刷物を政治的な道具として使うために、ルノドさんに『ガゼット』を発刊させたのだ。
ジャック:しかし、週刊といったって、フランスではまだ定期購読が定着していませんからね。
ノーデ:そうだよ。そこで頼りになるのが、ジャックのような呼び売り人、本の行商人だ。
呼び売りの行商人が支えたマザリナード
ジャック:店を構えている書籍商もいるにはいましたが、印刷業と書籍販売を両方兼ねているところも多くて、分業はできていなかったのですよね。
ノーデ:行商人は籠ひとつあれば、誰にでもできる。
ジャック:本に携わる職業の人たちは、現在、パリには1000人くらいいますね。
ノーデ:それらがピラミッド形に序列化され、その頂点に立つのが…
ジャック:王室印刷監督長官セバスティアン・クラモワズィーさんで、そしておいらたち呼び売り屋がこのピラミッドの最下層にいるってわけですよ。
ノーデ:最下層とはいえ、ジャックのような呼び売り屋がいなければ、マザリナードを売り捌けないだろ?
ジャック:まあね。
ノーデ:そういえば、ゴンディ協働司教、もとい今ではレ枢機卿でしたね、あの人は呼び売り屋を何人も雇って自分の書いたものをばら撒いているそうじゃないか。
ジャック:ゴンディさんは行商人のお得意さんですよ。
教会の説教が外に出た感じ?
ノーデ:そもそも、あの人は聖職者で、人前で話したり、説教には慣れている。そうした教会の説教の延長として、印刷物をとらえているようだな。
ジャック:自分の声で話すよりも、文書にした方がより多くの人に届けることができるというわけですよ。
ノーデ:文字が読めなくたって、誰かに読んでもらうことができるし。
ジャック:職業として文章を読みあげる女性たちもいますよ。
ノーデ:読書だって、音読をみんなで聴いてるんだし。
ジャック:ラ・ロシュフーコーさんも、その方が楽しいと言ってます。
ノーデ:つまり、レ枢機卿は、リシュリュー枢機卿同様、印刷物により人々に影響を与えられると考えていた。その意味では進んでいる人だな。
ジャック:時代が時代なら、メディア王などを目指せたかもしれませんね。
ノーデ:生まれてくるタイミングがもっと遅ければ。
ジャック:時代ガチャとでもいいましょうか…
ノーデ:(小声で)カプセルトイもこの時代にはまだないのだよ、ジャック。
ジャック:しゅん。

