モンバゾン夫人vsコンデ家 因縁の対決に導いた6年前のお手紙事件
さて、そもそも6年前に遡るお手紙事件とは…
本の行商人ジャック:残るはモンバゾン夫人の娘に与えられたお腰掛け特権をどうするか。
ノーデ:しかし、モンバゾン夫人はロングヴィル夫人の宿敵。というより、むしろコンデ家から目の敵にされているからなぁ。
ジャック:6年ほど前になりますか…モンバゾン夫人のやらかしたあのお手紙事件。
ノーデ:あの一件はラ・ロシュフーコーさんが回想録に書き残している。
ジャック:かいつまんでいうと、モンバゾン夫人はある日、偶然二通の手紙を拾った。誰のものともわからぬ手紙を、それがロングヴィル公爵夫人の手による恋文であり、お相手はコリニー伯だと、宮中でふれまわったのですね。ここでは省きますが、ロングヴィル夫人への敵愾心から、いじわるをしてやろうと思ったらしいですね。
ノーデ:この件にはボーフォール公も一枚噛んでいる。
ジャック:噂になる前に、モンバゾン夫人からこの手紙のことを聞いたラ・ロシュフーコーさんは、これはたいへんなことになると夫人を止めた。一旦はラ・ロシュフーコーさんの忠告を聞き入れたかに見えるモンバゾン夫人だったが、ボーフォール公がさらに焚きつける。
ノーデ:結局、王妃様の知るところとなり、ラ・ロシュフーコーさんが、王妃様の前で、ロングヴィル公爵夫人をよく知るランブイエ夫人やサブレ夫人などに筆跡を確かめさせ、真実が明らかになる。
ノーデ:さあ、こうなるとモンバゾン夫人は公式の場で謝罪をしなければならないですよ。
ジャック:だが、コンデ家から謝罪を求められながら、ずるずると引き伸ばすモンバゾン夫人。そして戦場にいたコンデ親王が鬼の形相で戻ってくる。
ノーデ:ジャック、われわれの欧州の文化に「鬼」はいない。そこは表現に注意してくれ。コンデ親王が猛然と怒っているときの怖さはたしかに伝わるが…
ジャック:失礼しました。モンバゾン夫人はコンデ邸に呼びつけられ、コンデ公夫人、つまりコンデ親王とロングヴィル夫人の母にあたる人の前で、人々の見守る中、許しを乞うことになります。
ノーデ:コンデ公夫人は娘ロングヴィル夫人にその場から外れるように言ってあったので、これはコンデ家に無礼を詫びる形だな。
ジャック:しかし、モンバゾン夫人もコンデ家の皆さんのお気持ちも、これできれいさっぱりとはいかなかった…
ノーデ:両者に遺恨を残すことになりましたね。元はといえば、モンバゾン夫人の行動が浅はかだったわけですが。
ジャック:虎の尾を踏んでしまったのですね。
徹底抗戦の構えをみせるモンバゾン夫人だが…
ノーデ:ある日のこと、王妃様がチュイルリー宮の庭園にあるルナールの店で、コンデ公爵夫人を軽食に招いたときのことだ。なんの前触れもなくそこへモンバゾン夫人が現れた。
ジャック:うへぇ!
ノーデ:こうした不用意さにコンデ公夫人が苛立ち、退出するように言ったが、モンバゾン夫人はそれをガン無視。そこで王妃様が彼女に退出を命じ、同時に宮廷にも来るなに命じられた。追放だな。
ジャック:びびるわぁ〜!
ノーデ:ほぼ同時に、マザラン枢機卿を亡きものにしようという陰謀を企てた、との理由でモンバゾン夫人のお仲間たち、つまりシュヴルーズ夫人やボーフォール公などもいっせいに宮廷から追い払われた。
ジャック:大掃除ですね。
ノーデ:ボーフォール公はヴァンセンヌ城に幽閉。フロンドの乱が起きて脱獄するまでは、そこに閉じ込められていた。
ジャック:この脱出はデュマ父の『二十年後』に描写があります。詳しいです。
ノーデ:かなり脚色されてはいるがな…
ジャック:しかし、そのような因縁があれば、当然、この度のモンバゾン夫人の娘のお腰掛け特権にも、コンデ親王とロングヴィル夫人は反対でしょうね?
ノーデ:そういうことになるな。モンバゾン夫人というのは、じつはシュヴルーズ夫人の継母、つまりシュヴルーズ夫人の父親であるモンバゾン公爵の2度目の妻なのだよ。
ジャック:60歳の公爵と結婚したとき、夫人はまだ18歳で、継子のシュヴルーズ夫人よりもかなり若い。
ノーデ:それでも、義理の、しかも自分より10歳は年上の継娘であるシュヴルーズ夫人とは仲がよい。そして反マザランで意気投合しているのだ。
ジャック:しかもたいへんな美貌だとか!
ノーデ:同時代人が口をそろえて書いているくらいだから、そうとう美人だったのだろう。
ジャック:それゆえに宮廷内に味方がたくさんいる。ルイ14世のおじさん、ムッシューもそのひとりですね。
ノーデ:そこで夫人は一度与えられた特権を奪われてなるものかと、騒ぎたて、周囲に訴えるわけだよ。
ジャック:これまた厄介なことに。
ノーデ:宮廷の事情に詳しい人によると、王妃様はやむをえず密かに使者を送り、コンデ親王がこの件に反対している間は宮廷には来ないようにとモンバゾン夫人に告げたようだ。
ジャック:ついに王妃様が…
ノーデ:実際、今、宮廷はこんなスキャンダルで揉めている場合ではないのだよ。王妃様があなたの娘のお腰掛け特権を守ってあげると約束して、ようやくモンバゾン夫人を黙らせることに成功する。
ジャック:ともかくなんでもいいから約束して収拾させねばならないとは、いったい何が起きているんです?
ノーデ:続きはまた来週!