ほうれ、ライオンと猿と狐が一網打尽にされたわい! ガストン叔父さんの高笑い
ヴァンセンヌ城の夜
本の行商人ジャック:ヴァンセンヌ城に連れて行かれた御三方の続報が入りました!
ノーデ:おお、さすがフランケンうさぎの花ちゃんだな。仕事にぬかりがない。
ジャック:この逮捕は電撃的に行われたので、受け入れ先のヴァンセンヌ城ではお迎えの準備が整っていなかったようです。
ノーデ:そりゃ、さぞかしご不便を強いられたことだろう。寝るところさえ、整えられていなかったにちがいない。
ジャック:そこなんですがね、人によって、言うことがちがうんですよ。
ノーデ:なんと!
ジャック:ある人はコンデさんが服も着替えずに藁束の上に身を投げだすとそのまま半日眠り続けたといいます。
ノーデ:なんとまあ、豪気なことよ。
ジャック:と、思うでしょう。ここでなぜ藁束かというと、アレクサンドル・デュマ父の『二十年後』の1シーンを思い出していただきたいんですがね。
ノーデ:1649年の1月5日の深夜、寒さに震えながら国王ルイ14世が王妃アンヌ様に連れられて、パリを脱出。サン=ジェルマン=アン=レーの城に移られたあの夜のことだな。
ジャック:あのときも脱出計画を妨害されてはいけないので、サン=ジェルマン=アン=レーには知らせていなかったので、家具や寒さよけの壁掛けなどがまったく用意されていなかったのですよ。
ノーデ:そこで床に藁を敷いて眠ることになり、デュマ父描くダルタニャンは目端のきくところを見せ、藁を買い占めて宮廷の人たちに売ったんだったな。
ジャック:自分の分まで売ってしまって、後悔したという落ちになっていましたね。
ノーデ:だから、寝台が用意されていない場合は藁を敷いて寝ると…
ジャック:やんごとなき方々には辛い環境です。
ノーデ:しかし、コンデ親王は軍人だから、戦場では、そんなこと、慣れっこでなんとも思わなかった、ということなのだろうな。
ジャック:かえって、その強さ、逞しさを強調するエピソードになっていますね。
ノーデ:それで別のヴァージョンではどうなっている?
ジャック:ベッドがなかったので、コンデ親王は横にならず、座ったまま。3人で一晩中カード遊びをしていたという人もいるんです。
ノーデ:速攻で眠ったにせよ、一睡もせずにカードに興じていたにせよ、いずれにしても、コンデさんの豪胆さを強調するようなエピソードになっているな…
「ライオンと猿と狐がみごとに一網打尽」ガストン・ドルレアン談
ノーデ:この逮捕劇が人々に与えた影響はどうなんだ?
ジャック:宮廷潜入調査員のフランケンうさぎ、花ちゃんの報告によると、ルイ14世の叔父さんであるガストン・オルレアン公は、逮捕の場にはいなかったそうなんですが。
ノーデ:あの人は大事なときはいつも雲隠れするからな。
ジャック:逮捕のあとに、こうおっしゃったとか…「ほうれ、これでライオンと猿と狐がみごとに一網打尽にされたわい」
ノーデ:ずいぶんとまぁ、ひどい言い方じゃないかい?
ジャック:コンデさん、このところ嫌われてましたからね。
ノーデ:それで民衆はどんな反応をしているの?
ジャック:なにしろ、一年前にコンデ軍に包囲され飢えで死にかけたパリ市民としては、両手をあげて大歓迎ですよ。フロンド派の人たちは石を投げたいくらいだったのでは?
ノーデ:なんとまぁ…
パリを脱出して蜂起を促そうとするも、勝算はあるのか…ロングヴィル夫人
ジャック:たいへんな騒ぎになっているのはコンデ家の人々です。
ノーデ:そりゃそうだ、姉のロングヴィル夫人などは連座させられるかもしれないからな。
ジャック: ロングヴィル夫人は間髪を入れず、パリを脱出。ノルマンディーへ向かわれたとのこと。
ノーデ:夫ロングヴィル公爵の地元であり、蜂起を促すおつもりなのだろう。
ジャック:果たして思惑どおりにいくかどうか。
ノーデ:なにしろ本来なら先頭に立つべきコンデ親王、コンティ公、ロングヴィル公爵が幽閉されてしまったのだ。
ジャック:まずはできるだけ早く味方を集めねばなるまいと、ロングヴィル夫人は出発されたのですね。
ノーデ:しかし、宮廷もじっとしてはおれんぞ。
ジャック:宮廷が動くと?
ノーデ:敵は本能寺にありだ。
ジャック:またまた、極東の辺境の事例を持ち出すの…やめてください、ノーデ先生。
ノーデ:では、言い換えると、敵はルーアンにありと、来週は宮廷も移動し始めるのだ。
ジャック:いよいよシーズン2、物語が動きはじめます。
ノーデ:来週も乞うご期待!
ヴァンセンヌ城 Chateau de Vincennesの公式ホームページ
https://www.chateau-de-vincennes.fr
ヴァンセンヌ城は牢獄として使われていた時代があり、上記のホームページにはその歴史が紹介されています。
サド侯爵が幽閉されていた部屋もあります。
フロンドの乱においては、1648年に内乱が始まると同時に、ここに幽閉されていたボーフォール公が脱獄し、フロンド派に参加したことが思い出されます。この脱獄に関しては、アレクサンドル・デュマ(父)のダルタニャン物語『二十年後』に描かれています。もちろん、デュマによる脚色を施されています。デュマがどんなふうに想像力の翼を使って展開したかは、読んでみると、たいへん面白いですよ。ボーフォール公のキャラクターもそこにはいきいきと表現されています。『二十年後』におけるヴァンセンヌ城のシーンは歴史と物語の交差点にもなっています。