1650年2月9日−2月15日

午前の発砲事件は舌先三寸男ゴンディ協働司教のちのレ枢機卿の手下がしくんだ狂言?

本の行商人ジャック:1月にコンデさんら3人が逮捕されるわけですが、その直前にコンデさんを狙った暗殺未遂がありました。

ノーデ:そう、あれは1月11日。

ジャック:しかもご丁寧に午前と午後に。

ノーデ:午前中のテロは、パリ市定期金債権者会の役員であるギ・ジョリさんへの発砲事件だった。

ジャック:のちに回想録で有名になるギ・ジョリさんですね。お怪我はなかったのでしょうか? 

ノーデ:ピストルの弾が上着の袖に穴をあけたけれど、幸い腕に切り傷ができた程度だった。

ジャック:ゴンディ協働司教、つまりレ・枢機卿の取り巻きのひとりです。それにしても、いったい誰が…

ノーデ:犯人はわからなかった。しかし、のちにレ枢機卿がみずから回想録で暴露する。自分の手のものが、自分には内緒で勝手にやったこと…だと。

ジャック:え、それって、狂言ってこと?

ノーデ:そうなるな。

ジャック:なんだ、心配して損した。

ノーデ:発砲と同時にド・ラ・ブーレ侯爵が「人殺し!」と叫び、私が標的にされましたと言いながら高等法院のシャルトン議長がパレ・ド・ジュスティスに駆け込む。だが、高等法院の面々は完全にスルー。

ジャック:民衆もガン無視。

ノーデ:最初からなーんか裏があると思われていたんですね。

ジャック:そして、その日の夕方に、またテロ事件発生。

ノーデ:今度も裏がありそうに思われたが、午前の発砲事件よりはるかに大きな騒ぎになったのは…

ジャック:狙われたのがコンデ親王だったからですね!

コンデ親王殺害予告は、昼にビラが撒かれた!

ノーデ:まず、昼頃に、コンデ親王のお命を頂戴すると予告するビラが撒かれたのだ。

ジャック:それは騒ぎにならない方がおかしい!

ノーデ:狙われているにもかかわらず、ご本人はむしろ市中に出て行って、白黒つけてやると息巻くのだが…

ジャック:標的がうろついてどうするんです!

ノーデ:だよな。結局、王妃様とマザラン枢機卿の助言にしたがい、コンデ家のお仕着せを着た召使いが乗った馬車を複数仕立て、市中を走らせたのだ。

ジャック:襲ってきますかね?

ノーデ:暗殺者は餌にくらいついた。

ジャック:まじですか⁉︎

ノーデ:ポン・ヌフの橋のうえで、馬車が襲われ、召使の1人が殺されたのだよ。

ジャック: 17世紀のポン・ヌフといえば、夜はかなりやばい場所。

ノーデ:真っ暗だし、追い剥ぎ、強盗は日常茶飯事。貴族の馬車も油断ならなかった…暗殺には絶好のロケーション。

ジャック:犯人は誰つかまったのですか?

ノーデ:徒党を組んで襲ってきたのだが、取り逃したために犯人は誰だかわからない。朝のテロと関連づけられて、同一犯の仕業かとささやかれた。

ジャック:コンデ親王には、誰かお心当たりはなかったのでしょうか?

ノーデ:フロンド派にちがいないとおっしゃっている。

ジャック:あ〜ん、すると一年前のパリ包囲の報復ってことですかね?

ノーデ:フロンド派から相当憎まれている自覚はあったのだな。

一連の事件の黒幕は誰なんだ?

ジャック:それにしても、いったい誰が…?

ノーデ:コンデさんの死で、誰が一番得をするのかと考えると、それはもうマザラン枢機卿にちがいない…という噂が耳から耳へ囁かれた。

ジャック:派手にビラで予告までして、犯人はフロンド派ということにすれば、両方を一気に叩けるってことですかね?

ノーデ:ラ・ロシュフーコーさんやその周囲の貴族たちは、そう考えている。ゴンディ協働司教、つまりレ枢機卿もそうほのめかしている。

ジャック:腹のさぐりあいですね。

ノーデ:枢機卿は枢機卿で誰か騒ぎを起こしたいやつがいて、混乱を引き起こしたいだけだと。

ジャック:混乱を引き起こすのが目的なら、標的は誰でもよかったわけですよね?

ノーデ:念のために枢機卿は自身や王妃様の警備を強化することにした。

ジャック:ご自分が暗殺の対象になる可能性も意識していらしたのでしょうね。

ノーデ:なかには、これはコンデの自作自演だという人もいた。ヴェネチア大使の見立てでは、あたかもマザラン枢機卿が黒幕だったかのようにみせかけ、枢機卿がいかに汚い手をつかう残酷な人物であるか印象づけようとしたのだと。

ジャック:それはまた、うがった見方というか…

ノーデ:結局、黒幕が誰かはわからない。

ジャック: だからといって、だまって引き下がるコンデ親王ではないでしょう?

ノーデ:そうなのだ。それでコンデ親王はゴンディ協働司教のちのレ枢機卿とそのお友達を暗殺の共謀犯として訴えた。

ジャック:うっわ!どうするゴンディ…

ノーデ:追い詰められたレ枢機卿、来週はこの人が主役。

ジャック:どうぞお楽しみに!

パリ高等法院とサント・シャペル
ポール・ド・ゴンディのちのレ枢機卿