1650年2月23日−3月1日

王族たちの捕囚の生活

本の行商人ジャック:さて、逮捕され、ヴァンセンヌ城に閉じ込められた3人の王族はどのような生活を送っていらっしゃるのでしょう。

ノーデ:ドンジョンの3階で、なかなか良い居住空間を提供されているらしいぞ。

ジャック:なんたって、王族ですからね。

ノーデ:しかし、警戒は厳重だぞ。18人の警護と3人の下級兵士が昼も夜も見張っている。

ジャック:なんでも王妃様じきじきのご指名を受け、警備を取り仕切っているド・バールさんという人はひじょうにまじめでしっかりしているとの評判です。

ノーデ:脱獄はまぁ無理だろうだな。

ジャック:でも、あのコンデさんがおとなしく閉じ込められていますかね?

ノーデ:元気がありすぎて、牢番の頭に燭台を投げつけたりしているらしいぞ。

ジャック:それって、有体にいうと、大荒れに荒れ、当たり散らしているということでしょうか

ノーデ:まぁ、そうだな。

ディエップに門前払いされるロングヴィル夫人

ジャック:ところで、コンデ家の方々はどうしていらっしゃるのです?

ノーデ:類が及ばないわけがないので、蜂の巣をつついたようになっている。コンデご母堂様はパリの北にあるシャンティイ城に急いで引き篭もられたが…

ジャック:コンデ家のお姫様、ロングヴィル公爵夫人は?

ノーデ:コンデ兄弟と一緒に逮捕された夫、ロングヴィル公爵のお膝元、ノルマンディ地方を蜂起させようとすぐに行動を起こしたのはいいが…

ジャック:思うようには動いてくれない?

ノーデ:貴族たちは馳せ参じるのだが、富裕な市民階級の支持が得られない。

ジャック:そりゃ、そうですよ。経済も都市もめちゃめちゃにされてしまいますからね。

ノーデ:それでもカーンやル・アーヴルは市門を開いてくれた。だが、ディエップでは門前払いだった。

ジャック:王妃様はディエップに使者を送り、ディエップの町ではそれを受け入れ、城の周囲にバリケードを築いたそうじゃないですか。

ノーデ:ロングヴィル夫人は慌ててディエップから逃走せざるをえなかった。

流浪の姫君の行先は?

ジャック:この冬の寒さのなか、お姫様が裸足でディエップを出なければならないほどに慌てていたと聞きますが…

ノーデ:それだけではないぞ。釣り船で海に出たら、悪天候のせいで船から落ちたそうだ。

ジャック:天候にも左右されますよね。

ノーデ:そこで馬に乗り換えて、何日も身を隠しながらの逃避行。だが、英国の船に乗ることができて、ロッテルダムへ着いたのが2月20日のことだそうだ。

ジャック:ひぇ〜! 弟たちが逮捕されて1ヶ月後くらいですかね。

ノーデ:そこからスペイン・ハプスブルグ家の支配が及ばないリエージュへ行き、さらにストゥネに向かった。

ジャック:あぁぁ、チュレンヌ元帥の退避しているところへ行かれたのですね!

ノーデ:なぜか、日本の学生に人気のチュレンヌ元帥…

ジャック:いや、それ、一部の学生のあいだで人気なだけですから。

ノーデ:それにしても、なぜチュレンヌ元帥が気に入られるのか…まったく、わからんよ。

ジャック:マリー・アントワネット様は永遠に人気者ですけどね。

ノーデ:ジャックよ、まだ生まれていない人の話をするのはやめてくれないか?

ジャック:ノーデ先生の影響を受けたんですよ。

国王ルイ14世もじっとしてはいられない

ノーデ:ロングヴィル夫人がそんなご苦労をしている頃、国王と王妃様御一行はルーアンを出発し、2月22日にパリへお戻りになられた。

ジャック:流転のお姫様、アンヌ・ジュヌヴィエーヴ・ド・ブルボン=コンデ、またの名をロングヴィル夫人、これからどう巻き返すのか…

ノーデ:しかし、国王ルイ14世もまた、これから地方の反乱を防ぐために王国をめぐる旅に出なければならなくなる。

ジャック:まだ11歳の少年が。

ノーデ:誰がこの国の王、支配者であるかを見せてやらなければならないのだ。

ジャック:難儀なことでございますなぁ…