1650年3月30日−4月5日

ブルゴーニュで反乱が⁉︎

ノーデ:宮廷は2週間ほど前にディジョンに到着した。

本の行商人ジャック:そこで、さっそくミニ三部会を開いて、税の負担をお願いしたわけですね。

ノーデ:宮廷の滞在費も必要だったのだが、じつは喫緊で金策せねばならない状況もあったのだ。

ジャック:いったい何が起きているのです、ディジョンで?

ノーデ:このあたりにはコンデ派の頭になりうる人物ピエール・レネがいる。

ジャック:レネさん? え、あのレネさん?

ノーデ:そう、国務顧問官で、ディジョンの高等法院で国王代訴官をつとめたこともある、あのレネさん。先代からコンデ家に仕えている貴族で、去年の秋、宮廷とコンデ親王の間がギクシャクし始めたころに距離を取ろうとしたのか、ディジョンに引っ込み、のんびり田舎暮らしを楽しんでいた…

ジャック:のんびり、結構じゃないですか!

ノーデ:だが、そこへコンデ家の兄と弟、娘婿のロングヴィル公爵逮捕の知らせが飛び込んで来たわけだ。

ジャック:それでは心中穏やかではいられない。

ノーデ:しかもだよ、ジャック、この人がタヴァンヌ伯爵というこの地方の有力な貴族を味方に引き入れたというのだ。

ジャック:えーっと、タヴァンヌさん、タヴァンヌさんというのは…たしか、ディジョンのバイイ、つまり王様や領主の名において裁判を行う代官でしたよね?

ノーデ:それだけじゃない。この人はコンデ軍では重騎兵など指揮した軍人なのだよ。

ジャック:ノーデ先生、それ、ヤバい感じしかないのですが…

ノーデ:ヤバいもなにも、タヴァンヌ伯爵はレネさんの要請に間髪を入れず兵を集めて蜂起した。ところがだ…

ジャック:どうしたのです?

タヴァンヌ伯爵vsタヴァンヌ侯爵

ノーデ:それが叔父であるタヴァンヌ侯爵を激怒させたのさ!

ジャック:えっとー、タヴァンヌ伯爵にタヴァンヌ侯爵か…ややこしいな、もう。

ノーデ:叔父の侯爵はブルゴーニュにおける王様の代行官。宮廷には忠実な人で、即座にディジョンの町を支配下においた。

ジャック:叔父と甥の対決ですか!

ノーデ:甥のタヴァンヌ伯爵も負けてはいない。武力で叔父を蹴散すことに成功。だが、それでもディジョンの町は奪えなかったのだ。

ジャック:え、なんで?

ノーデ:ディジョンの高等法院で王の代訴官長代理が呼びかけたため、町の人々がそれに応じて武器を手に立ち上がったからさ。

ジャック:ひえ〜、町としてのディジョンが抵抗した!やっぱ、王様に逆らうというのはリスキーだということですね。

ノーデ:そこで王妃様が新たに任命した州総督はすみやかにディジョンに入ることができたのだ。

ジャック:おや、誰なんですか、その新しい州総督って?

ノーデ:ヴァンドーム公だよ。

ジャック:え、あのコンデ親王暗殺未遂事件で共犯として訴えられているボーフォール公のパパ?

ノーデ:マザラン枢機卿の姪を嫁に迎えることにもなって、今やガッツリ宮廷に食い込んでいるのさ。

神聖ローマ帝国との国境付近がきな臭くなってきた…

ジャック:甥のタヴァンヌ伯爵は、それで諦めたんですか?

ノーデ :ディジョンの南、ソーヌ川のほとりにある小さな町ベルガルドを占拠した。

ジャック:ソーヌ川…あ、ああ、Saôneと書いて「ソーヌ」と読ませる。初級の教科書に出てくるフランス語の例外的な読み方の例!試験に出るやつ!

ノーデ:読み方はともかく、この町は小さいのだが、地政学的にはきわめて重要な位置にある。

ジャック:えっと、たしか、フランシュ・コンテとの境になっているところですよね。あ、あそこはもう現代でいえば、ドイツというかスイスというか…神聖ローマ帝国領にありながら、自由を保障されているフルゴーニュ伯領で、だから「フランシュ・コンテ(=自由伯領)」。

ノーデ:そう、だから常にあのあたりにはスペイン・ハプスブルグ家の軍隊がうろうろしている。

ジャック:いつでも応援に馳せ参じましょうってわけですね。

ノーデ:フロンドの乱を知りマザリナードを読むならば、この地理がとても大事なのだ。ディジョンもシャンパーニュも当時は重要な境界となっている地帯なのだから。

ジャック:おいらはブッフ・ブールギニョンが食べたくなってきちゃったな!

ノーデ:続きは来週にしよう。

Jacques de Saulx, comte de Tavannes