1650年4月20日−4月26日

ラ・ロシュフーコー公爵が語る(2)

ノーデ:宮廷はまだディジョンにご滞在中です。

ラ・ロシュフーコー:離れたところにいても、マザラン枢機卿は優秀なスパイを雇っているので、なんでもお見通しだ。

本の行商人ジャック:それでだ!王妃様はコンデ派がパリ高等法院を煽って反乱を起こそうとしていると気づかれたそうですよ。つい1週間ほど前のことらしいですけど。

ラ・ロシュフーコー:王妃様はコンデ親王の母上と奥方を完全無力化しようとなさるだろうな。

ジャック:なんでもシャンティイ城で反乱を煽る文書が印刷されているとのことで。

ノーデ:しかし、コンデ親王妃とご子息のアンギャン公爵はすんでのところで、脱出に成功したそうですよ。

ラ・ロシュフーコー:4月11日の夜に数名の騎手に護衛され、身分がわからぬよう変装されてシャンティイ城を出発なされたのだ。

ノーデ:おお、それは危ないところでございましたね。それでどちらへ?

ラ・ロシュフーコー:コンデ家の領地のあるサン=タマン=モンロンへ。

ジャック:ディジョンを失い、ベルガルドはその1週間後に落ちます。

ラ・ロシュフーコー:そこからさらに南下し、ギュイエンヌ地方へ向かわれるはずだ。

ジャック:目指すはボルドーでしょうか?

ラ・ロシュフーコー:順当に行けば、そうなるな。

コンデ母、パリ高等法院で不当逮捕を訴える

ノーデ:一方で、コンデ親王のご母堂様が来週、直々にパリ高等法院に出向き、この逮捕は不当であると訴えなさるそうです。

ラ・ロシュフーコー:当然だな。そもそもパリ高等法院が、前半のフロンドの最初の年に、宮廷につきつけた27項目の要求のなかに、何人も裁判なく拘束されないということを入れていたのだから。

ジャック:人身保護令のようなものですね。

ラ・ロシュフーコー:だいたい、理由もわからずにいきなり逮捕だ!と来るところが、この時代のおそろしいところよ。

ノーデ:したがって、コンデ親王のご母堂は、裁判もなく息子たちとロングヴィル公爵の身柄を拘束したのは不当であると主張したいわけですね。

ジャック:筋は通りますよ。

ラ・ロシュフーコー:筋は通る…たしかになぁ。だが、今回逮捕されたのはフロンド派ではない。昨年の1月に、パリ包囲戦でフロンド派を散々な目にあわせ、飢えさせ、住民を心底ふるえあがらせた暴力の源、コンデ親王なのだぞ。

ジャック:恨み骨髄…

ラ・ロシュフーコー:はい、そうですね、これは宮廷がよろしくありませんでしたと訴えを認めると思うか?

ノーデ:むずかしいでしょうねぇ。

ジャック:秋に起きたコンデ親王暗殺未遂に際しても、言を左右にし、犯人と目されるレ枢機卿やボーフォール公らを追求しようとするコンデ親王の足をひっぱり、訴えを最終的に退けたのはパリ高等法院ですからね。

虎視眈々と隙を狙って近づくスペイン…

ジャック:もうひとつ気になる動きがあるんです。

ノーデ:なんだ、ジャック、言ってみなさい。

ラ・ロシュフーコー:何かまた聞きつけたのか、パリの情報屋ジャック?

ジャック:どうもテュレンヌ元帥のあたりから匂ってくるのですよね…

ラ・ロシュフーコー:気をもたせずに、早く言え。

ジャック:スペインの援助を受け入れる算段をしているのではないかと。

ノーデ:なんと!宿敵スペイン・ハプスブルグからの援助を受けるとな…

ジャック:そのあたり、複雑なんですよ。一概に敵とも言えない。敵の敵は味方だし、場合によっては利用できる。パリ包囲戦の最中にも、ゴンディ協働司教とブイヨン公爵がコンティ公に働きかけ、パリ高等法院にスペインの使者を受け入れさせているんです。

ノーデ:テュレンヌ元帥にしてみれば、ノルマンディ、ブルゴーニュ、ソーミュールと次々に王の手に落ちてしまっては、誰でもいいから援軍をよこして欲しいという心境なのだろう。

ジャック:しかし、スペインの援軍を引き入れれば、ただでは済まないですよ。王権に逆らうだけでなく、国を裏切ることになる。

ラ・ロシュフーコー:戦さは勝たなければ意味がない。あとのことは勝ってから考えればいいんだ、ジャック…

Portrait de Charlotte Marguerite de Montmorency (1594-1650), épouse de Henri II de Bourbon-Condé (1588-1646) ルーベンスによるコンデ親王母の肖像

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