陛下、ブイヨン公爵、ロングヴィル夫人は国家叛逆罪のお尋ね者です!
国家叛逆罪の面々はそろって南西のボルドーを目指す
本の行商人ジャック:たいへんです、ブイヨン公爵、ロングヴィル公爵夫人、さらにチュレンヌ元帥、それからラ・ロシュフーコーさんも、宮廷は彼ら全員を大逆罪であると宣言しました。
ノーデ:そうか、その国王宣言は各地の高等法院に送りつけられるぞ。
ジャック:これでもう、これらの方々は逃げも隠れもできない国家反逆罪のお尋ね者というわけですね。
ノーデ:彼らを助ければ、同罪ということだ。
ジャック:コンデ夫人も同様ですね。
ノーデ:もはや後戻りはできない。
ジャック:モンロンにお集まりになった方々はコンデ夫人と一緒にボルドーを目指しているようです。
ノーデ:宮廷側としては、造反組の大貴族どもがコンデ夫人を担ぎあげたと思っているだろうな…
ジャック:しかし、コンデ夫人は先にも言いましたように、今までコンデ家のなかに閉じ込められていたような状態なので、大丈夫でしょうかね。
ノーデ:コンデ家のご家老であるレネさんも、そこは心配していたようだ。けれども、人は「場」を得ると化けるからな…
ボルドーという土地は火薬庫
ジャック:コンデ親王支持派はリモージュをさらに南へ行き、ロカマドゥールの手前にあるチュレンヌ子爵領の村に集結しているもようです。
ノーデ:チュレンヌ子爵領は中世にさかのぼる美しい村なのだ。それに丘の上にそびえる要塞化した城がある。
ジャック:なによりもそこは自治領だということですよね。王様の主権の及ばない土地。
ノーデ:そこでブイヨン公爵やラ・ロシュフーコー公爵がコンデ夫人を待っているのだな。
ジャック:なんでも6000人の歩兵と1000人の騎兵を率いているそうです。
ノーデ:ここからボルドーへまっしぐらに向かうのだ。
ジャック:しかし、なぜボルドーなのですか?
ノーデ:それはボルドーという土地柄が反乱を起こすのに有利だと考えられるからよ。
ジャック:といいますと?
ノーデ:ボルドーといえば、ワインだが、あの土地は長らく英国人の支配下にあった。そして現在もワインを買ってくれているのは英国人なのだよ。そこで、ルイ13世が中央集権化を強めようといろいろ干渉したときに、もっとも反発が強かった。
ジャック:あぁ、どおりでエペルノン公爵への忌避感も強いのですね。
ノーデ:エペルノン公爵は宮廷から直接の任官を受けて、地方総督としてやってきたのだからな。
ジャック:エペルノン公爵に関しては、聞くところによると、それだけでなくご当人の性格が暴力的なところも嫌われているようですよ。
ノーデ:特に民衆から嫌われている。だからそこを突くのさ!
ジャック:しかも、この地方は16世紀の宗教的対立のトラウマが残っていて、きっかけさえあれば、すぐ暴動に発展しやすい土地柄ともいわれています。
ノーデ:見落とされがちだけれど、カトリックとプロテスタントの敵対関係は根強く残っているのだよ。
ジャック:しかし、ボルドーがかならずしもコンデ支持にまわるとはかぎらないでしょう?ノーデ:ボルドーの町は、現在、問題を起こしたくない有力者たちと、蜂起した大貴族たちが送り込んでいる煽動家たちに煽られて反国王に傾いている民衆と、二手に分裂している。
ジャック:ノルマンディーでもブルゴーニュでも、民衆の支持が得られなかったことが敗因でしたからね。今度こそは…。
誰がボルドーを手中に収めるのか、それが問題だ…
ノーデ:宮廷だって、それを黙って見ているわけにはいかない。封印王状でもって、コンデ夫人ら一行がボルドーの町へ入ることを阻止しようとするはずだ。
ジャック:民衆はどちらにつくのでしょうね?
ノーデ:神のみぞ知る。だが、これだけは言える。宮廷にとっても、ボルドーを掌握するのは、一筋縄ではいかないだろう。
ジャック:そのような土地へ向かって、コンデ夫人は幼い息子を連れ、大貴族たちをしたがえて進んでいるのですね。
ノーデ:ボルドーは町の門を開いて彼らを迎え入れるのかどうか…
ジャック:まだ先の話ですが、ドキドキしますね。

