1650年6月8日―6月14日

そのころ、北の国境線では…

ノーデ:宮廷はブルゴーニュから戻ってまだひと月しか経っていないのに、またパリを離れることになったようだ。せわしないことになっておるな。

本の行商人ジャック:今度の目的地は北のコンピエーニュだそうです。ボルドーとは真逆の方角!どうなっているのですか?

ノーデ:それはな、テュレンヌ元帥とスペインがフランスの北の国境線を脅かしているからだよ。

ジャック:ああ、例の密約!

ノーデ:ストネにいるテュレンヌ元帥のもとへ、ルーアンの蜂起に失敗したロングヴィル公爵夫人が逃げていったのは2月のことだった。

ジャック:ちょっと時間を巻き戻して、おさらいしてみましょう。

ノーデ:ロングヴィル公爵夫人が到着するや、すぐにテュレンヌ元帥はかつての自分の軍隊を再結集し、兵力の増強を始めた。

ジャック:指揮官だけでも20人近く集まったというじゃないですか!

ノーデ:彼らの多くはテュレンヌ元帥とおなじユグノー、つまりフランスの新教徒だ。

ジャック:元帥の人望もありましょうしね。

ノーデ:ブルゴーニュからは蜂起が失敗しベルガルドを失ったタヴェンヌ伯爵も兵を連れて元帥の元に合流しようと向かっている。

ジャック:しかし、王軍に対抗する兵力としてはまだ十分とはいえないでしょう?

ノーデ:そこで外国の軍隊の出番となるわけだ。元帥はまずスェーデンの戦友に応援を求めた。

ジャック:30年戦争に直接介入する前に、フランスはスェーデンを援助し、間接的にハプスブルグ勢力を叩いていましたからね。

ノーデ:元帥は、お友達に助けを求めたわけだ。

ジャック:それで、スエーデンは動いてくれそうですか?

昨日の敵は今日の友。敵の敵は味方…スペインが助っ人にかけつける

ノーデ:しかし、スエーデンからの援軍は来なかった…

ジャック:なんと、見捨てられちゃったんすか、元帥!

ノーデ:まぁ、あちらにも事情があるのよ。

ジャック:どうします、今度は誰に応援を求めるんです?

ノーデ:そこはそれ、発想を転換てやつだな…

ジャック:敵の敵は味方ってやつですかね?

ノーデ:ロングヴィル夫人が橋渡しとなって、オランダに駐留しているスペイン軍の将軍と交渉が始まった。

ジャック:戦争している相手に応援を求めたと⁉︎

ノーデ:まぁ、一見、狂気の沙汰のように見えるかもしれないが、外交の世界では敵の敵は味方だからね。

ジャック:スペインにしたら、この政治的混乱はフランスの力を弱める絶好のチャンスですよね。

ノーデ:元帥にしてみれば、ここで危ない橋を渡らなければ、勝ち目はないのだし…

ジャック:それって、俗に言われているように、テュレンヌ元帥のロングヴィル夫人への熱い恋心がなせる技だったのでしょうか?

ノーデ:後世のとある歴史家によれば、動機は別のところにあったらしい。

ジャック:ラ・ロシュフーコー公爵だったら、あるいは、情熱に突き動かされ、騎士道精神を発露させてしまったかもしれませんね。ロマネスクな精神のお方ですから…

ノーデ:どうやら、これにはブイヨン公爵とテュレンヌ元帥のお家の事情もからんでいるようだ。むしろ、そちらの動機の方が現実的。

ジャック:いったい、どんなご事情が、おありになるのでしょうか?

少年王ルイ14世

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