1650年7月21日―7月27日

レオポルト大公、そしてテュレンヌ元帥の快進撃!

本の行商人ジャック:ノーデ先生、エペルノン公爵解任問題をめぐって、ボルドー周辺がざわざわしているこのときに、これまで動かなかったレオポルト大公がフランスの北東、国境に近いラ・カペルに陣取りました。

ノーデ:いよいよ動き始めたか!

ジャック:そこからすぐ南のヴェルヴァン、そしてマルルへと進むだろうと思われます。

ノーデ:テュレンヌ元帥の軍隊が、これまた追い風にのって破竹の勢いだそうだ。ランスの北東に迫っている。

ジャック:その辺りを守っていた国王軍は軍資金もなく、見捨てられたような状態ですからね。傭兵に支払うお金もなくて、ランスまで撤退せざるを得なくなったそうですよ。

ノーデ:スペインの兵士の先頭に立つテュレンヌ元帥が、一気に首都までやってくるかもしれないという噂も否定しきれない情勢だ。

ジャック:それを恐れて、コンデ親王らをヴァンセンヌ城からバスティーユに移動させようという意見も再燃したようです。

ノーデ:この移送に関しては、パリお留守番のムッシューと、ボルドー討伐に出ているマザラン枢機卿では意見が分かれている。

コンデ親王の次はムッシュー?

ノーデ:宮廷とて一枚岩ではないのだよ、ジャック。というより、絶え間ない権力争いの場なのだ。

ジャック:何度も外敵スペインを打ち負かした英雄、昨年は見事にパリ包囲戦を成功させて宮廷を政治的危機から救ったコンデ親王だって、いきなり逮捕されてしまうのですからね。

ノーデ:王族のなかの誰かひとりの発言力が突出して強くなるのは、王様にとって好ましくない。

ジャック:それ、実質的には摂政の王妃様とマザラン枢機卿にとっては、ですよね? 王様はまだ子供なのだし…

ノーデ:昨年、包囲戦で国王軍を率いて首都パリをひざまずかせたコンデ親王は、王妃様とマザラン枢機卿にとっては次第に御しがたい存在となっていく。

ジャック:もともと、御しがたいお方ではありましたが、それで今年の初めに逮捕、ヴァンセンヌ城幽閉という運びになったわけですよね。

ノーデ:コンデ親王が不在の今、血統的に王様に最も近いムッシューの発言は重要になる。

ジャック:先王ルイ13世の弟ガストン、ムッシューとも呼ばれるオルレアン公。

ノーデ:、ルイ14世が生まれるまでは、王にもっとも近い人物だった。

ジャック:この人、リシュリュー枢機卿のことが大嫌いで、じつにいろいろな陰謀に加わってきましたよね。

ノーデ:最後はサン=マール侯爵の某反のときだった。あの時はかなり危ない橋を渡ったな(1650年6月15日―6月21日参照)

ジャック:しかし、このところはおとなしいですよ。

ノーデ:たしかに。マザラン枢機卿が好きなわけはないが、特に陰謀を企てる様子もない。

ジャック:むしろ、王妃様との関係はよいようです。

ノーデ:そして、今、宮廷がボルドー討伐に出かけているあいだは、国王代理として、パリに残っている。

ジャック:ムッシューに心理的に変化があるとすると…

ノーデ:そこなのだ、ジャック。

ジャック:いったいどんな?

ノーデ:コンデ親王がいない今、自分には政治的にマザラン枢機卿に対抗しうる発言力があると気づいたのだ。

ジャック:王妃様も、マザラン枢機卿も首都を離れていますからね。

ノーデ:しかも、フロンド派の拠点、パリにいるのだよ。国王の代理として。

ジャック:反マザランに動きますかね…

ノーデ:しかも、その可能性を考えるものがもうひとり、そばにいる。

ジャック:まさか…

ノーデ:そう、人を操るために生まれてきたようなあの舌先三寸男、ポール・ド・ゴンディのちのレ枢機卿。マザラン枢機卿への対抗勢力としてムッシューを利用しようと考えてもおかしくはない。

ジャック:マザラン枢機卿を排除したいフロンド派勢力はいまだにパリ高等法院で力をもっています。

ノーデ:王妃様とマザラン枢機卿に次ぐ、第三の力としてのムッシューからは目が離せないぞ。

Portrait de Léopold-Guillaume par Pieter Thijs.