1650年8月11日―8月17日

ひっつき虫ゴンディ

本の行商人ジャック:ノーデ先生!ボルドーの町の外で戦闘があり、エペルノン公爵の腹違いの兄弟が負傷し、亡くなってしまいました!

ノーデ:ガロンヌ川の島をめぐる攻防があったようだ。

ジャック:このところ戦闘が続いていますね。

ノーデ:ボルドーがそんなガチンコ対決になっているときに、パリはパリで、フロンドの嵐が再燃かという状況になりつつある。

ジャック:どういうことですか? パリ高等法院?

ノーデ:コンデ派からの圧力はあるものの、パリ高等法院はコンデ親王らの解放について、慎重に見解を明らかにしてはいない。

ジャック:それじゃあ、いったい誰が煽っているんです?

ノーデ:ほうら、あの舌先三寸男。

ジャック:煽動家のゴンディ協働司教、のちのレ枢機卿ですか?しばらく鳴りを潜めていたと思ったら…

ノーデ:のどから手が出るほど枢機卿の帽子が欲しいのさ。そこで王妃様に擦り寄っていたが、マザラン枢機卿は警戒していた。ゴンディ協働司教が枢機卿の帽子を欲しがるのは、王国の政治の中枢に入り込みたいからにほかならない。つまり、マザラン枢機卿の地位を狙っているのだ。

ジャック:あまりにもわかりやすい。

ノーデ:マザラン枢機卿は当然気づいていたので、ゴンディを敬遠した。だが、そんなことで諦めるような男ではない。

ジャック:そこで、とりあえず、王族の誰かにひっつくわけですね。

ノーデ:宮廷はちょうど今、ボルドー討伐でパリを留守にしている。

ジャック:パリにいるのは、お留守番のオルレアン公、国王代理のムッシューだ!

ムッシュー、そやつはキツネかタヌキでございますゆえ、操られてはなりませぬ

ノーデ:どうやら、ゴンディ協働司教がムッシューにいろいろ吹き込んでいるようだ。

ジャック:王族であるムッシューは、国王ルイ14世とアンヌ王妃様に次ぐ3番目の権力者。

ノーデ:しかも、宮廷が留守の間は国王の代理という権限もある。

ジャック:だから、先週のようにエペルノン公爵の解任もできてしまう。

ノーデ:いずれにしても、パリからの報告を受けたマザラン枢機卿はこの状況は望ましくないと判断された。

ジャック:ムッシュー危うし。

ノーデ:ムッシューを正気に戻すことができるとしたら、王妃様だけだ。

ジャック:変なことになる前に、パリへ戻らないと!

ノーデ:それにはボルドーの問題をできるだけ早く解決しなければ。

ジャック:しかし、戦況は有利とはいえません。これはちょっと厄介だぞ。

ノーデ:前門の狼、後門の虎…

ジャック:(小声で)いや、ゴンディ協働司教は虎というよりは、人を惑わすキツネかタヌキですよね…

レ枢機卿の肖像
ポール・ド・ゴンディのちのレ枢機卿