旅に病む 王妃アンヌ
心労と旅の疲れが祟ったのか、王妃アンヌ様のご容体が…
本の行商人ジャック:どうも、このところアンヌ様のご体調がよろしくないようです。
ノーデ:ご心労がたたったのであろうな。
ジャック:のーてんきのマドモワゼルはボルドーで大歓迎されたみたいに言ってましたけど、王妃様の周辺の人の印象はちょっとちがうようですしね。
ノーデ:「このたびのボルドーの反乱はほんとうに堪えた」と、王妃様は側近にもらしているそうじゃないか。
ジャック:本来なら王家を支えるべき大貴族やが、国王に反旗を翻した。さらに下々のものがそれに賛同して蜂起した…
ノーデ:そこへもってきて、王妃様は暑さにあてられお風邪を召されたようなのだ。
ジャック:弱目に祟り目。泣きっ面に蜂。王妃様にとっては、とんだご災難で…
ノーデ:これでは、ムッシューの反対がなくても、ラングドックなどを回るのはむずかしかったな。
ジャック: なんでも、お熱が続いているそうですが。
経由地ポワティエで一休み
ノーデ:結局、それでボルドーはもっと早くに出発する予定だったのに、十日もいることになった。さらにポワティエでは、いよいよ身動きがとれなくなってしまった。
ジャック:お気の毒に。旅先での病とは…
ノーデ:お元気のときだって、終日お馬車に揺られるというのはつらいものだが、ご体調がすぐれぬにもかかわらず、王妃様は旅をお続けになっているのだ。
ジャック:難儀なことですよね。
ノーデ:あるときは寝室係が遅れて、寝台が準備できず、木の椅子しかなかったのだが、そこにくず折れるようにして座りこんでしまわれたそうだ。だが、不平ひとつおっしゃらなかったとか…
ジャック:不行き届きを咎め立てもせずに?
ノーデ:むしろ、自分たちはつねに快適さに恵まれているので、たまにつらいことがあるのはよいと。
ジャック:今、ポワティエではパリまでまだ遠いですよ。
ノーデ:さしあたり、次の目的地、アンボワーズの城まではがんばっていただかねば。
ジャック:心配なことですね。
ノーデ:お熱さえ下がってくれれば…

