1650年10月20日―10月26日

身体ガチャ?17世紀は健康も運しだい

ノーデ:国王と王妃様がアンボワーズ城にご到着だ。

本の行商人ジャック:王妃様のお熱はまだ下がらないので?

ノーデ:うむ、思わしくないのだ。

ジャック:しばらくアンボワーズ城にてご静養なさったほうがよろしいのでは?

ノーデ:そうするしかあるまい。

ジャック:とは言え、パリではムッシューと、今やその腰巾着となって、耳によからぬことを囁き続けるゴンディ協働司教、のちのレ枢機卿が好き勝手しているかと思うと、気持ちばかりが焦りますよね。

ノーデ:日に何度も瀉血をなさっているようだが。

ジャック:瀉血…って、あの血を抜く?

ノーデ:瀉血と浣腸はこの時代の治療の王道。

ジャック:まぁ、この時代、抗生物質とかありませんからね。

ノーデ:生き残るということだけでも、たいへんな時代なのだ。

ジャック:のちの歴史家たちによれば、平均寿命は30代だそうですよ。

ノーデ:乳児死亡率も高いから、たくさん産んでも、育つのはわずかだからな。

ジャック:しかし、貴族は長生きしていますよね?

ノーデ:農民や都市の下層民に比べたら、はるかに衛生環境と栄養状態が良いからだ。

ジャック:ラ・ロシュフーコーさんなんて、この内乱のさなかに戦闘で2度も重傷を負いますが、66歳まで生きる…

ノーデ:ジャック! 私の水晶玉を勝手にのぞいたな!

ジャック:『アルタメーヌ、あるいはグラン・シリュスの物語』を絶賛執筆中のスキュデリー嬢など、100歳近くまで生きると出ていますよ。

ノーデ:運もあるだろう。

ジャック:アンヌ王妃は64歳まで生きるのか…この時代には長生きだといえますが…おお、なんと死因は乳がんなのか⁉︎

ノーデ:400年後ならば、生命を落とさずとも治療できたかもしれんな。

ジャック:おや?ルイ14世はそれより長生き。76歳まで生きる!

ノーデ:王様は暗殺されなければ、長生きできる。

ジャック:食材も一番いいものが提供されるし、狩りなどで運動もしている。寒ければ、服もちゃんと着られる

ノーデ:そもそも住環境がよく、寝台で寝ることができる。

ジャック:貧しい人は床に藁を敷いて寝ているし、寒さを防ぐ壁掛けのタペストリーなどもない。

早逝した父、ルイ13世の病はクローン病

ノーデ:疫病が流行り、飢饉がくれば、庶民はバタバタ死ぬしかないのだ。

ジャック:ですが、ルイ14世のお父上、ルイ13世は41歳でお亡くなりになりになっています。早いのではないでしょうか?

ノーデ:ルイ13世はクローン病だったらしい。

ジャック:この時代の医学的知見ではその診断はつかないですね。

ノーデ:王様の主治医が毎日克明な綴った記録が残っている。何を召し上がって、どういう状態になったか、食事と体調の変化は関連づけられて、逐一記録に残されている。

ジャック:しかし、17世紀にクローン病の治療法も薬もありませんからね。

ノーデ:ひたすら瀉血と浣腸を繰り返したようだ。

ジャック:おつらかっただろうなぁ。消化器官が丈夫かどうかは、人生を左右しますよね。

ノーデ:ルイ13世は、残念ながら、その点、恵まれていなかった。

ジャック:しかし、その子であるルイ14世は食べ過ぎでしょっちゅう胃腸を壊しつつも、天寿をまっとうするわけですね。

ノーデ:まこと、人の寿命というのはわからぬものよな。

ジャック:さて、王妃様のお熱ですが…

ノーデ:瀉血で下げられるものなのか。

ジャック:心配なことですなぁ。

17世紀に書かれた外科処置に関する書(1671年)

Bibliothèque de l’Université Paris Cité 所蔵

https://numerabilis.u-paris.fr/medica/bibliotheque-numerique/resultats/index.php?do=zoom&cote=47877&p=5

Lambert, Antoine,

Les Commentaires ou les oeuvre chirugicales d’Antoine Lambert…divisez en cinq parties dont les matieres sont marquées à la page suivante. Seconde edition. Reveus, corrigés & augmentés d’observations….

A Lyon, chez Pierre Compagnon & Robert Taillandier, 1671.


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