1650年11月24日―11月30日

ル・アーヴル移送中、コンデ親王らの奪還は果たせず

本の行商人ジャック:15日にル・アーヴルにむけて移送が開始されたコンデ親王、コンティ公、ロングヴィル公爵の御三方は25日に到着したとのことです。

ノーデ:厳重な警戒のもと、無事に移送が完了したか!

ジャック:御三方はつねに救出の助けが来ると信じていらっしゃるようです。

ノーデ:王妃様じきじきに護送のお役目を命じたバールがいては、脱走など無理な話だ。

ジャック:救出を試みるコンデ派は歯軋りしておられることでしょう。

ノーデ:それで、新たな住居は気に入ってもらえたのかな?

ジャック:それがですね、待遇が悪い、監視が厳しすぎるとご不満を述べられているようですよ。

ノーデ:逮捕されてから、もうじき1年近くになろう。軍隊で野戦になれているコンデ親王とて、さすがに居住性の悪い幽閉生活にはうんざりといったところだろうか。

ジャック:ところで、王妃様のご体調はこのところいかがなんです?

ノーデ:なんでも、新しい治療法を試みられ、少しずつ回復なさっているらしい。

ジャック:それはたいへんけっこうなことで。

マザラン枢機卿への風当たりが増すばかりのパリ

ノーデ:となれば、そろそろ国王側は本腰を入れて体制を立て直さねばならない。

ジャック:ボルドーの鎮圧はかろうじて抑えつけたような印象でしたからね。

ノーデ:マザラン枢機卿も満足はなさっていない。

ジャック:パリへ戻ってみれば、内政の混乱はいやますばかり。

ノーデ:しかも、カタルーニャ地方の戦線ではスペイン軍に押されて、後退している。

ジャック:ああ、また枢機卿の舵取りのせいだといわれますね。なんせ、軍神、コンデ親王を幽閉しているんだから。

ノーデ:それがマザラン枢機卿への批判をいっそう強めている。

ジャック:それに、パリへ戻る前、フォンテーヌブローで会って以来、ムッシューの態度が硬化しています。王妃様に対してさえもなんかこうよそよそしいんですよね。いったい、どうしちゃったのでしょう?

ノーデ:パリ高等法院の動きがいよいよ気になるのだ。

ジャック:コンデ親王らを擁護する方へ傾いていっていることですか?

ノーデ:コンデ派の策謀が功を奏しているのだ。

ジャック:マザラン枢機卿はこの状況をどう考えていらっしゃるのでしょうね?

ノーデ:それがまったく動じている様子もないのだよ。

ジャック:えええ、肝がすわっているってことでしょうかね?

ノーデ:いやいや、そういうことではなくて、枢機卿にはご自身で考える政治的な優先順位というものがあるのだよ。それに向かって前進する。あとは時間が解決する。

ジャック:そうはいっても、巷にあふれるマザリナードだって、去年より数は減ったようですが、マザラン批判はひどくなっている。

ノーデ:私は大いに心配しているのだよ、ジャック。

ジャック:そういえば、ノーデ先生は枢機卿の側近の方に、これらの誹謗文書にもうちょっと真剣に対応なさるべきだとお手紙を送ってらっしゃいましたね。

ノーデ:枢機卿はこんな紙切れは時期がくればおさまると、高を括っておられるのだ。

ジャック:だいじょうぶなんですかね、そんなのんきなことで?

ノーデ:大丈夫じゃない、と私は思うぞ。

コンデ親王母の病

ジャック:そうそう、巷の噂じゃ、コンデ親王夫人がまたぞろパリ高等法院に夫の逮捕は不当だと訴えるという話です。

ノーデ:コンデ親王の母君が以前に訴え出ていたな。

ジャック:じつはその母君のご健康がひじょうに思わしくないのですよ。

ノーデ:コンデ親王もコンティ公も幽閉の身では、母君に何かあっても駆けつけるわけにはいかない。

ジャック:娘さんのロングヴィル公爵夫人もストネイに退避していらっしゃる。こんなときにいずれのお子さんともお目にかかれないなんて、お気の毒です。

ノーデ:やはりご心痛が重なって、健康を損ねられたのではあるまいか…

ジャック:ほんにほんに…