無礼なゴンディにふとんをひっぺがされた少年王ルイ14世のトラウマ
無礼なゴンディにふとんをひっぺがされた少年王ルイ14世のトラウマ
本の行商人ジャック:枢機卿はあのように楽観視していらっしゃいましたがね、どうなのでしょう。
ノーデ:マザラン枢機卿が出発したあとに何が起きたかを少し振り返ってみようか。
ジャック:ゴンディ協働司教、のちのレ枢機卿は即座に「ムッシュー、つまりオルレアン公の命を受けた」と称して、パリ市の民兵を武装させ、フロンド派を動員し、すべての門と橋を封鎖しました。
ノーデ:なんとしても王妃アンヌ様と国王をサン=ジェルマン=アン=レーに行かせないつもりだな。
ジャック:二年前の1649年1月、あの前半のフロンドにおける衝撃事件。宮廷のパリ脱出の苦い記憶がよみがえったのですね。
ノーデ:パリはあのあとコンデ軍により完全に包囲され、猛攻撃を受けた。あの二の舞はなんとしても避けたいということだろう。
ジャック:国王が首都パリにいる限り、誰も物理的に攻撃できない。
ノーデ:しかし、王がそこにいなければ、パリは攻撃の対象になる。
ジャック:兵糧攻めも可能になり、完全に飢えさせられる危険がありますからね。
ノーデ:パリは城壁に囲まれている都市だから、出入り口となる門を封鎖してしまえば、通行は遮断することが可能だ。
ジャック:あのときは、ラ・ロシュフーコーさんらが市内にいて、決死の覚悟で外へ出て行き小麦粉の調達をしていましたね。
ノーデ:その食糧調達で、ラ・ロシュフーコーさんは銃で撃たれ、瀕死の重傷を負った。命を落とした人もいる。
ジャック:だから、パリにいるフロンド派もゴンディ協働司教も神経を尖らせるわけだ。
ノーデ:方で、幼いルイ14世にしてみたら悪夢のような体験だ。
ジャック:なんでも、ゴンディが「無礼にも王様が寝ている寝室にずかずかと入ってくるや、ふとんを引っぺがし、そこにいるかどうかを確認した」というのでしょう?そりゃ、やりすぎだわ。怖いですわ。
ノーデ:こうしたパリでの恐怖も、いや、フロンドの乱そのものも、幼い国王は記憶から抹消したいと思うことだろう。
ジャック:黒歴史ですよね、フロンドの乱は、ルイ14世にとって。
ノーデ:のちに、父の狩りの城であったヴェルサイユを壮大な宮殿に造り替えようという計画も、この体験から生まれたと後世の歴史家たちは書き記すだろう。
マザラン枢機卿の家族も含めて追放を決めるパリ高等法院
ジャック:それにしても、あの舌先三寸男、ゴンディ協働司教はいやなやつですよね。
ノーデ:マザラン枢機卿の後釜となって、権勢を奮いたいのだ。
ジャック:小物ですよ。
ノーデ:しかし、今のところは、オルレアン公の名前がなんでも叶える魔法の杖のようになったな。さぞ満足していることだろう。
ジャック:完全に虎の威を借る狐ですよ。
ノーデ:ジャックはゴンディ協働司教が気に入らないようだが、彼は彼なりに人生を賭けているから必死なのだ。ともあれ、王妃アンヌ様と王様は、以来ずっと、パレ・ロワイヤルから出られず人質状態が続いている。
ジャック:オルレアン公は、枢機卿がパリを出るやいなや、宮廷と高等法院のあいだに立つ公式の仲介役となりました。王妃様は釈放の同意を迫られて、署名なさいましたね。
ノーデ:ラ・ロシュフーコーさんはその署名を待って、コンデ親王を釈放するための代表団とともにル・アーヴルに向かわれた。だから、枢機卿に一歩先を越された形になったな。
ジャック:ほんとうに一足ちがいだったようですよ。ルーアンのあたりで、両者はすれ違ったそうですから。
ノーデ:ところで、話をパリ高等法院に戻すと、枢機卿が首都を脱出されて三日後にはもう枢機卿とそのご家族の追放を裁決しているぞ。
ジャック:仕事、速!高等法院、速!
ノーデ:与えられた猶予は2週間。それを過ぎたら、生死にかかわらず身柄を拘束するということだ。
ジャック:しかも、その身柄拘束ってやつは誰がやってもかまわないというのだから、ずいぶんと乱暴な話ですよね。
ノーデ:パリ高等法院はいささか頭に血がのぼった状態なのだろう。
ジャック:そのせいでしょうかね、徐々にコンデ親王ら大貴族たちとフロンド派のあいだがきな臭くなってきました。どうやら揉めているらしいですよ。
ノーデ:おやおや、それは…
ジャック:マザラン枢機卿がおっしゃっていたとおりになってきましたね。
ノーデ:共通の敵を失って、カオスへ突入ということか…。

