誰もが枢機卿の影に怯え、隣人の裏切りにピリピリしている
誰もが枢機卿の影に怯え、隣人の裏切りにピリピリしている
本の行商人ジャック:ノーデ先生、このところコンデ親王のことばかり心配していましたが、王妃様のお気持ちだって、それほど余裕があるわけじゃないでしょう?
ノーデ:当然だな。そうでなければ、自分にとっての反対勢力と裏で手を結ぼうなどとは考えまい。
ジャック:また、王国を離れているマザラン枢機卿だって、同じではないでしょうか?
ノーデ:なんでも、このような状況で王妃様と王様がパリにいると思うと、身が震えると手紙に書いてよこしたらしい。
ジャック:ああ、やっぱりね。
ノーデ:ピリピリしているのは、王妃様の周囲ばかりではないぞ。
ジャック:と、申しますと?
ノーデ:メルクール公がブリュールまで行ったことをパリ高等法院から追及されている。
ジャック:ブリュールといえば、まさに亡命中のマザラン枢機卿が滞在しているところですよね。
ノーデ:そこへ何しに行ったのかと、高等法院に釈明を求められているそうだ。
ジャック:で、何しに行ったんで?
ノーデ:それはわからんが、同時に、モレ院長は「ローラ・マンシーニと結婚しているのか」と詰問したそうだ。
ジャック:えっと、ローラ・マンシーニさんはマザラン枢機卿の姪御さん、いわゆるマザリネットのひとりですね。
ノーデ:メルクール公は「答えるにあたわず」と突っぱねたようだが。
ジャック:プライベートなことですものね。
ノーデ:だが、枢機卿の亡命後、ご本人と親族の追放が高等法院で裁決されたから、モレ院長としても、結婚がその前か後かと言うことをはっきりさせたいみたいだな。
ジャック:いちいち面倒だな。
ノワルムーティエ侯爵の密書が見つかった!やっぱり密約はあったのだ
ノーデ:じつはそればかりではない。ケルンへ向かう道の途中、馬で急ぐある人物をコンデ派が止めたところ…
ジャック:ケルンといえば、ブリュールとは目と鼻の先。マザラン枢機卿がいるところに物理的に近い
ノーデ:その人物の身体検査をすると、なんとポケットからノワルムーティエ侯爵の手紙が見つかったのだ。
ジャック:ノワルムーティエさんといえば、フロンド派からマザラン派へ寝返ったお人ではありませんか!
ノーデ:問題はその手紙の中身さ。
ジャック:興味津々!
ノーデ:亡命中のマザラン枢機卿とフロンド派の女性貴族との密約が書かれていた。
ジャック:ああ、王妃様も反対勢力と密約しているっていう噂だけれど、それじゃフロンド派のなかから枢機卿側に寝返る人が出ているということじゃないですか!
ノーデ:この程度は驚くにはあたらない。要は、皆、隣人の裏切りにピリピリしているということさ。枢機卿の影に怯えてね。
ジャック:枢機卿は遠くから人々を操っているんでしょうかね。
ノーデ:シュヴルーズ夫人とシャトーヌフ、ゴンディ協働司教のちのレ枢機卿らの三人が組んで、ムッシューをコンデ親王から引き離すという内容の密書。
ジャック:見返りに何を約束されたんですかね?
ノーデ:シャトーヌフさんには宰相の地位を。シュヴルーズ夫人には娘を枢機卿の甥、ポール・マンシーニと結婚させること。
ジャック:おお、マザリネットの他にも、枢機卿には甥という駒がいたんだ!
ノーデ:この甥にはヌヴェール公爵領とプロヴァンス総督の地位が約束されているのだよ。
ジャック:それで、ゴンディ協働司教には何が約束されたか、聞かなくてもわかりますよぉ。枢機卿の帽子でしょ?
ノーデ:コンデ派はこの手紙を印刷して拡散すると息巻いているぞ。
ジャック:そうら、オイラの出番だ!これは売れるぞ!

