ついに枢機卿の帽子をゲットしたゴンディ協働司教 以後はレ枢機卿となる
ついに枢機卿の帽子をゲットしたゴンディ協働司教 以後はレ枢機卿となる
本の行商人ジャック:コンデさんが宮廷を出られましたので、今やゴンディ協働司教の天下ですね。
ノーデ:おお、そうだった、今週はゴンディさんがついに枢機卿になれたのだ!
ジャック:とうとうあの赤い帽子を手に入れられましたか!
ノーデ:そうなのだよ。まだ公には知らされていないが、ローマ教皇様から指名があった。一般に公表されるのは来年になるだろうがな。
ジャック:後世の歴史家にはそれで1652年に枢機卿になったと書かれるのでしょうね。それにしてもゴンディ協働司教の枢機卿位への執着が尋常ではありませんでしたね。
ノーデ:この時代の宮廷の特殊事情というか、枢機卿になれば身分の序列で王族の次になれるのだよ。
ジャック:社会的上昇ですか?
ノーデ:それだけではないのだ。序列では王様に近づき、ローマ教皇を後ろ盾にできるというのだから、世俗と宗教、両方の権威を背後に持つことになる。
ジャック:そりゃ、もはや単なる高位聖職者とは呼べません、別格だな。
ノーデ:とはいえ、それによって有頂天になっているゴンディ協働司教は、これが亡命中のマザラン枢機卿によって巧妙に仕掛けらた甘い罠であることには気づいていないようだ。
ジャック:おそろしすぎる宮廷政治。
もとはイタリアのフィレンツェ出身の家柄
ノーデ:ゴンディ協働司教もご実家は悪くないのだよ。
ジャック:ノーデ先生、もうレ枢機卿を呼ばないといけないんですよ。
ノーデ:ああ、そうだったな。すぐには慣れそうにないが。
ジャック:なんでも元々はイタリアのご出身とか。
ノーデ:父方はフィレンツェの由緒ある家柄なのだよ。フランス国王アンリ2世の妃となったカトリーヌ・ド・メディシスに仕えた。母方はフランスの貴族だ。ゴンディ家は実に敬虔なカトリックで、あのヴァンサン・ド・ポールを家に寄宿させていたこともある。
ジャック:終生、貧しいものに寄り添い、その慈悲の心で知られ、のちに列聖されるヴァンサン・ド・ポール神父!
ノーデ:フロンドの乱2年目に、コンデ親王がパリを包囲して兵糧攻めにしたせいで、市民が飢え死にさせられそうになった時、宮廷を訪れ、王妃アンヌ様に慈悲を乞い、小麦粉をパリに運ばせるように直訴したお方だ。その願いは聞き入れられなかったがな。
サン・バルテルミーの記憶
ジャック:あー、そうだ!メディチ家のカトリーヌさんといえば、フランスが血で血を洗う宗教戦争の時の王妃様でしたね。つか、サン・バルテルミーの虐殺(1572年)でパリを新教徒の血で真っ赤に染めた…
ノーデ:そう単純化するものではないぞ、ジャック。しかし、一般的なイメージではそうなるかな…。彼女はフランスの新教徒ユグノーとカトリックの融和を図ろうと考え、自分の娘であり、国王シャルル9世の妹マルグリットと新教徒側の首領、ブルボン家のアンリ・ド・ナヴァール(のちのアンリ4世)の結婚を準備した。サン・バルテルミーの虐殺はこの結婚とそれによって訪れるはずの融和を祝うためにパリに集まってきていた大勢の新教徒が襲われたのだ。
ジャック:手当たり次第に殺戮されたみたいで、ものすごい数の犠牲者だったといいますよ。
ノーデ:プロテスタントとカトリックは同じキリスト教徒でありながら、長い間、たがいに憎悪をたぎらせていたのだから、そう簡単には「今日からお友だち」というわけにはいかない。そういう人たちがパリに集まってきていたのだ。一触即発で何が起きるかはわからない状況だった。
ジャック:フロンドの乱が起きた時も、サン・バルテルミーの虐殺の記憶が再燃しています。1648年8月にパリ高等法院の過激派評定官3人が突然逮捕されたことで、パリは暴動になってバリケード封鎖となった。あの時も人々はそれを思い出して心配していました。
ノーデ:そういえば、あれも8月の末のことだったなぁ。もう3年も前になるのか…
フランスの絶対王政確立に向けて
ジャック:一番過激な老評定官ブルーセル他2名が逮捕されたのが1648年8月26日。二日後の28日に彼らが釈放されるまで、パリはもうなんというか緊張が解けなかったですね。
ノーデ:サン・バルテルミーの経験から、市民は虐殺が些細なきっかけで始まり闇雲に殺されることを知っているからだ。
ジャック:疑われたら、自分の身も危ないですからね。
ノーデ:だから、「正しい」側について、自分もおなじように振る舞うしか身を守る術がない。一旦そうなると、もう狂気が去るまで止められないのだ。サン・バルテルミーの虐殺はパリだけにとどまらず、フランスの地方にも広がり、結局、プロテスタントの犠牲者は1万人にも及んだといわれる。
ジャック:本の行商人としては、ここで宣伝。アレクサンドル・デュマ(父)の書いた『王妃マルゴ』を読むことをお勧めしますね。
ノーデ:あの小説は映画化され、イザベル・アジャーニが王妃マルゴを演じていますが、死体が苦手な人にはお勧めできませんが…
ジャック:ゴンディ家の話からだいぶそれましたが…
ノーデ:とはいえ、無駄ではないぞ。何しろ、新教徒とカトリックが争ったユグノー戦争の傷跡は末長く続く。そして新教徒への迫害はむしろ17世紀にいよいよひどくなるのだ。
ジャック:これからいよいよ本格化する絶対王政の確立。スローガンは「ひとりの王、ひとつの法、ひとつの宗教」ですからね。
ノーデ:いずれルイ14世はお祖父さんの出した「ナントの勅令」を廃止することになろう。ジャック:新教徒の受難は続く…

ポール・ド・ゴンディ協働司教(これからはレ枢機卿ですが)とコンデ親王、ラ・ロシュフーコー公爵らの確執は『フロンドの乱とマザリナード』の第2章「詩神の降臨」pp. 55-56をご覧ください。

